ウクライナ侵攻の影、様変わりした「協調、対話、包摂」の精神[ダボス・ウォッチ]
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「ロシアに勝利するには、もっと武器や資金が必要だ」「より強力な制裁を」
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナ。スイス東部ダボスで開かれている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にはウクライナの閣僚や記者、活動家らが多く参加している。メディア向けイベントや公式セッションなど戦況や現地情勢、支援を訴える機会が設けられ、大きな関心と共感を集めている。

ゼレンスキー大統領のオンライン演説に大きな拍手

ハイライトは実質的な会合が始まった5月23日に行われたウォロディミル・ゼレンスキー大統領によるオンラインのライブ演説だ。会場は演説を聴こうという人が早くから大勢詰めかけた。大統領を紹介する世界経済フォーラムの創設者クラウス・シュワブ氏がロシアによる「不当な攻撃」に言及すると、会場からは「その通り!」という声が上がり、大統領が画面に登場すると、立ち上がって迎える人も。
「ロシアには最大限の制裁が必要だ」「国家再建に協力してほしい」。演説はこれまでよりも抑え気味の印象だったが、終わった瞬間、多くの参加者が立ち上がってスクリーンに映ったゼレンスキー大統領に大きな拍手を送った。こんな光景は初めて見たかも。近くにいたアフリカから来た女性は「すばらしい。影響力のある人が集まるダボスでこういう場を設けたのは良い。参加したかいがあった」と絶賛した。
ロシアの参加認めず、「中立」から一歩踏み出す

世界経済フォーラムは今回の総会で、政治家、財界関係者を含めてロシアからの参加を認めていない。シュワブ氏やボルゲ・ブレンデ総裁ら世界経済フォーラムの幹部は、ロシアの行為を繰り返し批判している。ダボス会議に関わってきた人は「これまでの中立的な姿勢に比べて立場を明確にしている」という。
そう、これまで参加したダボス会議では、気候変動や貧困など世界が直面する課題に対して、国際社会の協調や対話、包摂などの重要性が強調されてきた印象が強かった。だから個人的には、この変化に少々、戸惑いと不安も感じる。未曽有のコロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻などかつてない事態の中で開かれた今回の会議で繰り返し協調されるテーマは「歴史の転換点」だ。その通りだろう。誰にとっても。不安はたぶん、その先に何があるのか、まだ見えないから……。