東日本大震災をきっかけに誕生、「ウニの経済」がキラリ存在感[ダボス・ウォッチ]
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今年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)は「大物の参加が少ない」と書いたが、残念ながら日本の存在感も大きくなかった。政治家の参加はなかった。バイデン米大統領の訪日など重要日程と重なったことなどもあるだろう、とも思ったが、米国からはジョン・ケリー気候問題担当大統領特使や上院議員、知事らが参加して様々な場に姿を見せた。ビジネス関係者は多かったが、例年と違う5月開催という日程や新型コロナウイルスの影響で参加日数を短縮した人もいた。
旅行・観光競争力、感染症対策で日本は話題になったが…

「日本」が話題にならなかったわけではない。日本や雇用、貿易などに関するセッションでは企業トップらがパネリストとして登壇して発言し、世界経済フォーラムが会期中に発表した旅行・観光競争力ランキングでは、日本が初めて首位になった。感染症対策を討議するセッションで、日本のインフルエンザ対策が他に類を見ない成功事例として紹介される場面もあった。ただ、コロナ対策や混迷を深める国際情勢、経済の行方が注目された今回の会議で、もう少し日本の姿勢や存在を感じられる機会がほしかった、というのはぜいたくか……。
少々寂しい気持ちもしたが、思いがけない日本との出会いもあった。
ダボスに来る前に世界経済フォーラムのサイトで見つけた「Urchinomics」の記事。Urchinってウニだよね? 「ウニの経済」? 投稿したウニノミクス株式会社代表の武田ブライアン剛さんに連絡すると、海外や大分県などでウニの陸上畜養と藻場の回復・保全に取り組んでいるという。ダボス会議で発表するというので、現地で話を聞いた。
磯焼け海域のウニを回収、畜養…漁業関係者の収入向上図る

「きっかけは東日本大震災だったんです」
武田さんが拠点とするノルウェーを訪れた宮城県の漁業関係者から、震災後に大発生したウニが海藻を食い荒らし、海藻が著しく減少する「磯焼け」が起きていると聞き、事業に取り組んだ。磯焼けの海域の身入りの少ないウニを回収して特別な飼料を使って陸上で畜養する。藻場を守ると同時に廃棄せざるを得ないウニを高級食材として育てて地元漁業関係者などの収入向上を図る仕組みという。
会場では参加者から問い合わせや出資の可能性などの話が出ていた。「磯焼けは各地で起きているので広げていく。きっかけとなった宮城県ではぜひ実現したい」という。

日本どころか東北、それも宮城県。仙台からダボスにきてこんな出会いがあるとは思わなかった。見えないところで、いろいろつながっているんだな。それほど悲観的にならなくてもいいのかもしれない。