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「多い・薄い・長い」?! コロナで一層あらわになった日本の医療の特異性

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編集委員 猪熊律子

 日本にいると当たり前に感じていることが、外の目から見ると必ずしもそうではないということは多い。

米国人が羨んだ国民皆保険制度

 20年ほど前。ジャーナリスト向け奨学金をもらってアメリカを訪れた際、日本の医療に関心があるというアメリカ人から「日本の医療制度はすごいネ」と羨ましがられた。保険証1枚あれば、誰でも、いつでも、どこでも、低額の自己負担で医療機関にアクセスできる。日本に住んでいたらごく当然と思うことでも、国民皆保険制度がなく、無保険者が多いアメリカに住む人の目から見れば、見方は全く違うものになる。なるほど、日本で記事を書いていると、「3時間待ちの3分診療」など問題点にばかり目がいきがちだが、日本は戦後、世界に誇れる制度を築いてきたのだなと、その時感じたのを覚えている。

コロナ禍による医療逼迫(ひっぱく)を伝える読売新聞の記事(2021年4月16日朝刊)
コロナ禍による医療逼迫(ひっぱく)を伝える読売新聞の記事(2021年4月16日朝刊)

 その素晴らしいはずの日本の医療制度の綻びが、コロナ禍で一層、あらわになっている。

 感染拡大による病床確保の難しさが明らかになるにつれ、改めて感じるのは日本の医療提供体制、とりわけ病院の「特異性」だ。

 どこが特異なのか。他の主要先進国と何が違うのか。

 主な特徴として、以下が挙げられるのではないかと思う。

 (1)病院や病床数が多い(2)医師や看護師が「薄い」(3)入院している期間が長い(4)民間(私立)が多い。そして(5)外来がある――。

 各国の医療制度は異なるため、単純な国際比較は難しいということを踏まえた上で、一つずつ見てみよう。

 まず、(1)の病院、病床数の多さについて。経済協力開発機構(OECD)データを見てわかるように、人口100万人あたりの日本の病院数は66.2。ドイツ37.3、イギリス28.7、アメリカ19.1などと比べると多さが際立つ。病床数はどうか。人口1000人あたりの日本の病床数は13.0。これも、ドイツ8.0やイギリス2.5、アメリカ2.9などと比べると多いことがわかる。

 (2)の医師や看護師数はどうか。人口1000人あたりの医師数は、OECD加盟主要国の中では少ないが、見劣りするほどではない。看護師数はドイツには及ばないものの、フランスやイギリスよりも多い。問題は(1)で見たように、病院、病床数が多いため、1病院、1病床あたりの医師数、看護師数が極めて少ない、つまり「薄い」点だ。1病院あたりの医師数は、ドイツ113.9人、アメリカ136.7人に対し、日本はわずか37.7人。看護師数は、ドイツ351.8人、アメリカ615.9人に対し、日本は177.7人。「薄さ」は、1病床当たりで見ても同じだ。

 (3)の入院期間はどうだろう。急患や重症患者向けとされる急性期病床で比べると、日本の平均在院日数は16.1日。ドイツ7.5日、フランス5.4日、アメリカ5.5日などと比べて長さが目につく。

 この「(ベッドが) 多い ・(人が) 薄い ・(入院期間が) 長い 」の 3点セット が、日本の医療の特徴といえるだろう。各地に病床と医療人材が散らばった 分散型の「低密度医療」 とベッドを埋める入院期間の長さが、緊急かつ集中的にベッドと医療者を必要とするコロナ禍で病床確保を難しくしているのは、今、私たちが見ている通りだ。

 次に、(4)の民間(私立)病院について。海外、特に欧州では公立、公的病院が多いとされる中、日本では医療法人や個人などによる民間病院が多く、全体の8割を占める。「日本は欧米の国とは違って、政府は人、物、資金を使うことなく、民間の管轄指導を行うことで病院整備をしていった。結果、国の医療施設の中心が公営病院である多くの国からみると、日本は特異な医療提供体制を形成してきた」と、福永肇著『日本病院史』にある。なお、医療の提供主体は「民」が中心だが、それを賄う財政は「公」が担っている点も、日本の医療の特徴の一つといわれている。

 また、日本は中小規模の病院が多いため、ベッド数や人手、ゾーニング(感染病棟と他病棟の区分け)などの点から、コロナ患者の受け入れがなかなか進まないことが指摘されてきた。確かに、中小規模が多く、200床未満が病院全体の7割を占める。

 (5)の外来はどうか。「えっ、病院に外来があるのは当たり前でしょ?」と思いがちだが、欧米では病院は外来機能を持たず、入院治療に専念するのが一般的だ。病院(ホスピタル)と診療所(クリニック)の機能が分かれていて、患者は診療所などで総合医(ホームドクター)や専門医の診療を受け、必要があれば病院に入院して手術などの治療を受ける。アメリカでは、患者が入院した後も総合医や専門医が主治医を務め、病院の手術室や病院のスタッフを使って主治医が手術を行うこともあるというから、日本とは全く違うシステムであることがうかがえる。逆に言えば、日本は病院と診療所の役割分担が明確ではない(病床数が20床以上あれば病院になる)。だから、「外来部門を持つ病院とか、入院病床を保有する有床診療所という、欧米からみると奇異なハイブリッド型医療機関が日本には存在している」(『日本病院史』)ことになる。

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