ミニシアターとシネコンが引っ張った映画館の復活

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編集委員 片山一弘

 前回のコラムでは、1950年代における映画館の全盛期と、その後の80年代にかけての 凋落(ちょうらく) ぶりについて紹介した。

 筆者は1964年(昭和39年)生まれで、物心ついてから成人するまでの期間、映画館の入場者数はほぼ右肩下がりだった。

70年代は子供向け番組隆盛…裏を返せば

紙吹雪やタンバリンを使って映画を楽しむ「マサラ上映」で盛り上がる観客=2019年(平成31年)4月9日大阪夕刊
紙吹雪やタンバリンを使って映画を楽しむ「マサラ上映」で盛り上がる観客=2019年(平成31年)4月9日大阪夕刊

 初めて映画館に行ったのがいつか、はっきり記憶してはいないが、70年代前半、小学生の頃だと思う。当時は夏休みや春休みに大手映画会社が「東映まんがまつり」と「東宝チャンピオンまつり」を競って上映していた。前者は「仮面ライダー」シリーズやテレビアニメの劇場版が中心、後者はゴジラ映画を中心にテレビアニメ数本を組み合わせたプログラム。筆者の世代には、ゴジラは当時「昔のキャラクター」という印象があり、「東映まんがまつり」を選ぶことが多かった。

 考えてみると、映画館で子供向け特集を組んでいる間は、大人は映画館に寄りつかない。それでも盛んにやっていたのは、大人向け映画での集客が見込めなかった裏返しかもしれない。筆者が小学6年生だった1976年(昭和51年)の年間映画入場者数は1億7102万人(日本映画製作者連盟調べ)。全盛期のわずか15%である。

 中学生になる頃には、一人で映画館に行くようになった。その頃、外国映画は、まず東京や大阪など大都市の大きな映画館で封切られ(これを「ロードショー」と呼んだ)、その次に近郊や地方都市で上映された。値段も少しずつ安くなっていた。遅れて上映される映画館は「二番館」「三番館」などと呼ばれていた。封切りから何年もたった旧作を上映するのが「名画座」だ。

 中学生の小遣いの範囲だからロードショーを見ることはまれで、地元に近い二番館に足を運ぶことが多かった(ロードショーは1作だけの上映だが、二番館では別の映画との2本立てになることが多かった)。床に吸い殻が転がっていたりトイレが臭かったりしたのは、前回のコラムに紹介したのと同じ。ただ、かつてのように立ち見客でぎっしり満員ということは、めったになかったけれど。

高級志向の椅子やトイレが大好評

スペイン坂にあるミニシアター「シネマライズ・渋谷」。モダンな外観とおしゃれな感覚の作品が人気を呼んでいる=1989年(平成元年)5月11日夕刊
スペイン坂にあるミニシアター「シネマライズ・渋谷」。モダンな外観とおしゃれな感覚の作品が人気を呼んでいる=1989年(平成元年)5月11日夕刊

 そんな状況が変わり始めたのは80年代だった。

 82年(昭和57年)2月6日夕刊芸能面に<小劇場「シネマスクエアとうきゅう」 人気上々、固定ファン増える>という記事がある。81年末、東京・新宿歌舞伎町にオープンした映画館が<心配された観客動員も予想を上回る好成績をあげ、着実に固定ファンをふやしつつあるようだ>と書かれている。定員224人の小さな劇場で、<各回入れ替え定員制、金、土曜のレイトショー(夜九時から一回上映)、一脚七万円のフランス製のゆったりしたイス>が特徴。今では当たり前のことばかりだが、当時は珍しかった。

 映画館の多くが、映画会社の配給を受けて映画を上映する中で、館が独自に映画を選んで上映する単館ロードショー方式は、74年(昭和49年)から東京・神保町の岩波ホールが行っていたくらいで珍しかった。岩波ホールで上映されるのは、旧ソ連や東欧、アジア、アフリカなどの芸術映画が中心。<岩波文化のまねではなく、もっと手軽に楽しんでもらえる作品を上映しようと考えました>と、シネマスクエアとうきゅうの配給を手掛けた原正人さんは後に語っており(2013年=平成25年11月23日朝刊気流面「時代の証言者」第16回)、「 薔薇(ばら) の名前」「仕立て屋の恋」など多くの作品をヒットさせた。

 84年(昭和59年)6月8日朝刊都内版には<スーパーの新商売大当たり ミニ映画館 ねらいは主婦層 イス、トイレなどで高級感も>という見出しで、東京・大森にある西友大森店の「キネカ大森」を紹介している。3スクリーンを備え、<音質のいいドルビー付きのスピーカーを壁面に埋め込み、イスも人間工学的に試作を重ねたゆったりタイプ。女性用トイレには防犯カメラを取り付け、お湯も出るホテル並みの設備>という。<「学生のころには結構、映画館に足を運んでも家庭に入るとさっぱりごぶさた――という主婦層をいかにひっぱり出すか、二年間研究を重ねました」>というのが支配人の狙いだ。

 清潔で安全で高級感のある設備で、個性的な作品を上映する小規模な映画館は、やがて「ミニシアター」と呼ばれるようになり、それぞれに観客をつかんでいく。

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2299583 0 ちょっと前はどうだっけ? 2021/08/20 15:00:00 2021/08/20 15:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/08/20210818-OYT8I50053-T.jpg?type=thumbnail

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