日本人が羊肉を受け入れるまで

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編集委員 片山一弘

 東京では、長かった緊急事態宣言が解除された。久しぶりに外食しようかと思う人も多いのではないだろうか。

 いま筆者が食べたいのは羊料理だ。共感してもらえる人は、あまり多くないかもしれないが。牛や豚や鶏に比べると、普段出入りする飲食店やスーパーの総菜で羊料理に出合える機会は少ないので、自粛生活が長引くと羊料理の専門店が恋しくなる。

日本に羊はいなかった

北海道を訪れ、札幌・月寒の種羊場で羊をなでられる摂政宮(後の昭和天皇)=1922年(大正11年)7月
北海道を訪れ、札幌・月寒の種羊場で羊をなでられる摂政宮(後の昭和天皇)=1922年(大正11年)7月

 だいぶ身近になったとはいえ、日本における羊肉は、まだ牛、豚、鶏と並ぶ主要な食材とは言えない。筆者は一時期、日曜版の仕事で世界のあちこちを訪ねていたのだが、主要産地のオーストラリアはもとより、北欧、北アフリカ、中東、東アジアなど、多くの地域で羊は身近な食材だった。むしろ、日本ほど羊を食べない国は珍しいかもしれない。

 そもそも羊は日本にはいなかった。本格的に家畜として飼われるようになったのも、食用に供されるようになったのも、明治以降のことだ。1914年(大正3年)6月9日朝刊「よみうり婦人附録」に<羊肉を勧めたい △獣肉中の最上品 △毛は織物に (ますます) 入用>という記事がある。

 <羊肉は牛肉よりも繊維 (こまか) く、組織が粗いので、消化がよい。脂肪の (すくな) いものは鹿肉に劣らない、脂肪の多いものは一種の香気があつて、誠に風味よく、獣肉中最上品です。その香気は、慣れない人は嫌ふが、一度味が (わか) ると、 何人(なんぴと) も美味とします。>

 いささか褒めすぎではないかと思うこの記事は、東京で羊肉が買える店、羊料理を食べられる店などを紹介し、<その優れた毛は毛織物として、需要が益々多くなるばかりですから、我が当局者は飼養を (さかん) に奨励して居ります そして羊毛の輸入を防ぐと共に、美味な肉を (やす) く供給されるやうになるのは一挙両得と () ふべきであります>と語る。

 文末には<(農商務省種畜場長崎発生氏調)>とあるので、羊肉の奨励は国策だったことが推測できる。17年(大正6年)12月14日朝刊には、30年がかりで羊毛の自給を実現しようという農商務省の計画が報じられており、19年(大正8年)4月29日朝刊には<廃物を利用して羊を飼養せば 家庭の副業に最も善い 又子供の友達にもなる>と農家で数頭の羊を飼うことを勧める記事がみられる。

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2407864 0 ちょっと前はどうだっけ? 2021/10/01 15:00:00 2021/10/07 09:50:16 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/09/20210929-OYT8I50117-T.jpg?type=thumbnail

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