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社会部デスク 新庄秀規

 まさに、このコラムを書き始めた時に、そのニュースが流れてきた。
 漫画家のみなもと太郎さん死去 74歳

マンガ史研究でも知られたみなもと太郎さん。自宅には多くの蔵書が(東京都新宿区で)
マンガ史研究でも知られたみなもと太郎さん。自宅には多くの蔵書が(東京都新宿区で)

 今回のコラムは、この人が書いた本の話から始めようと思っていた。昔、一つのマンガを1時間、徹底的に話し込む「BSマンガ夜話」というテレビ番組があって、ある回にみなもとさんが出演していた。「ホモホモ7(セブン)」や「風雲児たち」という歴史に残る作品を描いた大漫画家が、他人の作品のことを本当に楽しそうに話すのがとても印象的で、4年前にその本が出版された時は、すぐに購入した。

みなもと太郎著「マンガの歴史」(岩崎書店)
みなもと太郎著「マンガの歴史」(岩崎書店)

 「マンガの歴史」。何のひねりもない題名だ。しかし、読み始めると、手がまったく止まらない。江戸時代の絵師・円山応挙に始まる「かわいい」絵、絵巻物や紙芝居という日本にしか見られない文化、そして手塚治虫の出現……。よどみなく、そしてユーモラスに、日本のマンガがどうやって生まれ、どのように変わってきたのかがつづられている。漫画史研究家の肩書も持つ、みなもとさんの労作だ。

 本は1時間もたたないうちに読み終わった。ああ、おもしろかった。でも、その本当のおもしろさは、その後、しばらくたってから気づいた。マンガの紹介の本なのに、イラストが一枚もないのだ!  (せん)(りつ) を覚えると共に、なるほど!と膝を打った。

 「写真や図表、イラストをふんだんに使ったわかりやすい紙面」。読売KODOMO新聞は創刊した2011年以来、ずっとこうした文言で紙面をPRしてきた。しかし、写真や飾りがあればわかりやすいだろうか。図表があればいいのだろうか。その疑問がずっと自分の頭にあった。

 マンガの歴史という、イラストが入らなければ到底説明できないだろうという内容を、すべて文章だけで表現してしまったみなもとさんの本は、その疑問を氷解してしまった。写真や図表、イラストはわかりやすさの手段にすぎない。文章だけでもわかりやすく伝えることは可能だし、逆にイラストや写真しかない紙面も可能なのではないか。

 それ以来、この本はKODOMO新聞編集室に配属された社会部記者の課題図書になっている。改めてご (めい)(ふく) をお祈りしたい。

 新聞はニュースを扱う媒体だ。ニュースとはその名の通り、「新しいこと」。これまで誰も知らなかった出来事や知見を集めたものが新聞だ。

 だからこそ、新聞社は「新しいこと」を知るための取材に全力を挙げる。

 発表された内容の裏側を聞き出すため、ネタ元と呼ばれる情報提供者を探す。仲良くなって聞き出すこともあれば、理詰めで答えざるを得ない状況に追い込んでネタを得ることもある。とにかく記者はまず取材だ。記者によってその手法は千差万別だけれど、とにかく人から話を聞かないことには成り立たない。

 メディアの数の多い東京では、そんな取材のプロが数え切れないほど存在する。社会部でいえば、事件記者。あまたの事件を取材してきた (つわ)(もの) たちが、一斉にある事件に「突撃」する。私は警視庁で捜査2課を担当していた際、ライバル記者たちの迫力にたじろぐことしきりだった。全く知らない事件が他紙に大きく載り、泣かされたこと多数。とにかく取材力を磨くことしか頭になかった。

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2317129 0 デスクの目~社会部 2021/08/27 15:00:00 2021/08/27 16:10:32 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/08/20210824-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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