デスクの目~ドジョウ宰相の「武士の一分」

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 藤沢周平の時代小説を映画化した「武士の一分」は、一身の面目をかけて決然と闘う男の覚悟と情愛を描いた物語である。

 藩主の毒味役を務めて失明した下級武士・新之丞は、上司が弱みにつけ込んで自分の妻をもてあそんでいると知り、命を賭して上司との果たし合いに臨む――。人生の哀歓を端正な文章でつづった藤沢作品には、政界のファンも多い。

 野田佳彦・前首相もその1人だ。2011年8月、民主党代表選を勝利した際の演説の中で、「藤沢周平から下級武士の(りん)としたたたずまい、矜持(きょうじ)を学んだ」と語っていたのが、今も心に残っている。

無所属議員として雌伏する野田佳彦・前首相
無所属議員として雌伏する野田佳彦・前首相

 野田氏もメンバーに名を連ねた衆院会派「無所属の会」は、1月の通常国会召集に合わせて解散し、多くが野党第1党の立憲民主党の会派に合流した。しかし、野田氏は行動を共にせず、新会派「社会保障を立て直す国民会議」を結成した。

 別の道を選んだ背景には、立民側が受け入れ条件の一つとして突きつけた「10月の消費増税反対」という踏み絵があった。首相在任中、消費増税を柱とする社会保障・税一体改革を主導した野田氏にとって、それはあまりにも高いハードルだった。

 立民会派に加わらないことが、消費増税に政治生命をかけてきた野田氏の譲れない「一分」だったのだろう。新会派結成の記者会見で、10月に予定する消費税率10%への引き上げの賛否を問われた野田氏は、「現時点では何とも言えない」としつつ、「景気回復局面においては上げるべきだと思う」と語った。

 そもそも消費増税は、野田政権下の2012年、当時の民主、自民、公明の3党が合意したものだ。少子高齢化で急増する社会保障の財源を確保するため、与野党とも「政争の具」にせずに増税を受け入れる、という理念だった。ところが、安倍首相が増税を2度延期し、民主党の流れをくむ立民は増税反対に転じた。一体改革の枠組みが大きく揺らいでいる今こそ、野田氏には文字通り、「社会保障を立て直す」旗振り役を求めたい。

 野田氏のもう一つの使命は、バラバラの野党の再生だ。

 記者会見では、「痛恨の極みは、自分の(2012年の衆院)解散で(自民)1強を作ってしまった。それを克服するのが私の役割だし、それを果たさなければ死んでも死にきれない」と決意を口にした。民主党政権が3年3か月で幕を閉じて以降、党名を変更して出直しを図った民進党は支持を拡大できず、立民と国民民主の2党に分裂した。確執を抱える立民と国民は自民党という共通の敵を見失ったかのように、国会対応などで対立を続けている。政権運営に緊張感を与えるためにも、野党は結束し、強くならなければならない。

 どの政党にも身を置かず、無所属議員として雌伏する野田氏。自らの政治姿勢を重ねたドジョウのように、泥臭く、表舞台へ()い上がってほしい。

プロフィル
十郎 浩史( じゅうろう・こうじ
 政治部次長。1996年入社。福井支局、京都総局を経て2003年9月から政治部、大阪社会部で政治取材を担当。首相官邸や自民党、橋下徹氏などの取材を手がけた。

436238 1 Webコラム・解説 2019/02/08 17:00:00 2019/02/08 17:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190207-OYT8I50041-T.jpg?type=thumbnail

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