デスクの目~日米、貿易交渉の深層

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ホワイトハウスで、中国の劉鶴副首相(写真右端)と会談したトランプ米大統領(同左端)=AP
ホワイトハウスで、中国の劉鶴副首相(写真右端)と会談したトランプ米大統領(同左端)=AP

 百万の言葉より1枚の写真の方が状況を雄弁に語ることがある。右の写真をご覧いただきたい。1月31日のホワイトハウス。貿易摩擦を巡り、トランプ大統領と劉鶴(リウフォー)・中国副首相が顔を合わせた会談の1コマだ。

 何かをまくし立てている様子のトランプ氏。それを右端の劉氏が神妙な顔で聞いている。まるで、社長室に呼び出され、指示を言い渡されている部下のようだとは言い過ぎか。だが、少なくとも、米国の攻勢に中国が苦慮している構図が見て取れる。

 強硬な態度で交渉に臨む米国。かつての日米貿易摩擦も同じだった。

 1990年代に交渉の最前線にいた霞が関官僚OBの話だ。ワシントンの交渉相手の執務室に通されると、向こうは椅子にふんぞり返ったまま、有無を言わせぬ調子で、日本に譲歩を求めてきた。いや、「求める」どころの話ではない。日本が取るべき行動を列挙し、「通告」してきたそうだ。

 当時、米国は旧ソ連との冷戦に勝利し、世界唯一のスーパーパワーとして君臨していた。自らの言い分が通らないはずはない。むしろ、日本に正しい行動を教え諭さなければならない。はた迷惑な思い込みを抱える相手に手を焼いたという。

 そんな超大国の「おごり」に日本が見事なしっぺ返しを食らわせたことがある。2014年9月にワシントンで行われた環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る甘利TPP相と、米通商代表部(USTR)のフロマン代表との会談だ。

 ここで甘利氏は、米国の主張ばかりを口にするフロマン氏に業を煮やし、「お前が(交渉を)まとめようと思わない限り、もう俺は会わない」と言い放って、決然と席を立った。

 米国が圧力をかければ、ほかの交渉国は折れてくる。そんな思い込みを打ち砕いたことで、フロマン氏の態度が変化し、TPP交渉が進展する分水嶺になった。

 米国は今、中国との貿易協議に忙殺され、日本との協議は春以降に先送りされる気配だ。

 しかし、いずれ米国と向き合うときは来る。そのとき、毅然(きぜん)とした交渉態度を取れるのか。

 実は、甘利氏の果敢な行動の背景には、豪州やマレーシア、ベトナムなど、ほかのTPP参加国からの後押しがあった。自国のエゴをむき出しにし、リーダーとして交渉をまとめようとしないフロマン氏に、ほかの参加国はほとほと嫌気が差し、日本を頼りにしていたというのが実情だ。甘利氏は、フロマン氏が孤立しかけている状況を理解させ、逆に圧力をかけたと言える。

 昨年末に米国を除く11か国でTPPは発効した。2月1日には、日本とEUの経済連携協定(EPA)の発効が続いた。今、日本は二つの巨大な自由貿易圏の結節点にいる。

 日本と同様にトランプ政権の保護主義を危惧する仲間は多い。かつてのTPP交渉と似通った状況を、どう生かすのか。知恵の絞りどころだ。

プロフィル
宮崎 誠( みやざき・まこと
 経済部次長。1997年入社。金沢支局などを経て、2003年10月から経済部。財務省や電機業界、経済産業省などを担当。予算編成やTPP交渉などの取材を手がけた。

436241 1 Webコラム・解説 2019/02/08 17:00:00 2019/02/12 16:54:17 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190208-OYT8I50007-T.jpg?type=thumbnail

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