マンガのくに~あやめ症候群<3>異形の愛 世相反映と予言

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『人外さんの嫁』より。「相手が人間でないことで、普通の恋愛マンガより自由なところがある」と相川さん (c)八坂アキヲ・相川有/一迅社
『人外さんの嫁』より。「相手が人間でないことで、普通の恋愛マンガより自由なところがある」と相川さん (c)八坂アキヲ・相川有/一迅社

 ヤマザキコレさんの『魔法使いの嫁』(マッグガーデン)のヒットで、平成末期に「人外じんがい×人間カップル」ブームが広がった。「以前は出版社がその手の企画と商業的成功を結びつけていなかったのでは。描きたい人は多かったと思う」と、担当編集者の新福恭平さん(31)は推測する。

 それが今や、相当のクセ球でもありの時代に。とびきりの異色作が、八坂アキヲ、相川有『人外さんの嫁』(一迅社)だ。

 2016年から「ゼロサムオンライン」で連載中の4コマ連作。16歳の高校生男子、とまりクンが、突然「カネノギさん」という人外の嫁となる。カネノギさんは大きなぬいぐるみのような姿で、正体不明、性別不明、人語も解さない。ただ抱きつくと毛並みが大変キモチイイ。気がつけば、周囲の男子たちも人外と結婚していて、「夫のノロケ話」に花を咲かせる毎日に。

 奇妙キテレツだが、妙に癒やされる。泊たちは、相手が人外でも「誰かに選ばれたこと」を素直に喜んでいる。本作の人気は、現実の恋愛がいろいろ難しいからなのだろうか?

 「そういうことはあると思う」と作者の一人、相川さん。「この作品は女性に向けて描いていますが、社会的な性差や婚姻というシステムの中の役割に、毎日自分を当てはめて生きていかなくてはいけないことに息苦しさを感じている人は多い。そんな人たちの『息抜き』になっているのだと思います」

 異類婚姻たんは古事記にもあり、当然ながらマンガの歴史よりずっと古い。例えば室町~江戸時代初めに人気だった「ねずみ草子絵巻」は、ネズミの権頭ごんのかみが人間の姫君との結婚を観音様に願い、いったんは夫婦になるものの、ネズミの正体がばれて姫君に逃げられる悲劇をユーモラスに描く。

 「広い意味で『おとぎ草子』と呼ばれる絵巻の一つですが、絵の中に人物や動物のセリフがついて、目と文字の両方で楽しめる。現代マンガの面白さに通じるものがあります」と、この絵巻を所蔵するサントリー美術館(東京)主任学芸員の上野友愛ともえさん(36)。「でも異類婚ものは、例外なく最後に破綻するんです。ネズミの権頭は嘆き悲しんだあげく出家しちゃって、ちょっとかわいそうになります」

 平成マンガはそこが大きく違う。森山絵凪えな『この愛は、異端。』(白泉社)は、悪魔ベリアルに魂の代わりに貞操を与える契約をした少女が主人公だが、二人は何と心を通わせて結婚する。暮石ぐれいしヤコ『ソマリと森の神様』(徳間書店)では、感情のないゴーレムと旅する少女がゴーレムを「おとうさん」と呼び、本当の親子のような絆を結ぶ。人外と人間は別れない。異形の愛は成就する。

 手塚少年が『ロストワールド』で敷島とあやめを添わせ、異類婚姻譚の“お約束”を破ったのは、それが戦時下だったことと無縁ではないだろう。近年、再び人外×人間カップルが増えているのは、現代の若者たちの心情を映すと同時に、私たちの国がこれから国際社会で直面する問題を予言しているのかもしれない。

 「あやめ症候群」とは、相いれないと知りつつ、それでも他者を分かりたいと思う心のことなのだから。

プロフィル
石田 汗太( いしだ・かんた
 編集委員。1984年入社。岐阜支局、文化部、中央公論新社などを経て2017年10月から現職。文化部では主に文芸、マンガ、アニメなどを担当。

487274 1 Webコラム・解説 2019/03/14 05:00:00 2019/03/14 05:00:00 エトキ別送 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/03/20190313-OYT8I50000-T.jpg?type=thumbnail

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