「コンコルド効果」と「国の威信」…隘路の三菱スペースジェット
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子どもの頃、図鑑で飛行機の写真を眺めるのが好きだった。特に記憶に残っているのが 「コンコルド」。世界で最も速く飛び、スピードは「ちょうおんそく」だという。鋭くとがった機首に、長い細身の機体が印象的で、いつか乗ってみたいと憧れた。
あれから20年以上がたって企業取材を担当するようになると、再び「コンコルド」の言葉に出会う。「コンコルド効果」。すでに巨額の投資をしてしまったために、不採算事業と分かっていてもやめられない心理状態を表す。

英仏両国の失敗から生まれた言葉である。1960年代に両国が共同開発した超音速機は、運航にこぎ着けたとしても巨額の開発費を回収することは難しく、採算が取れないことが早々に判明していた。すぐに開発を中止することが最善の選択だったはずだが、投資をやめられなかった。
憧れのコンコルドは2003年に運航を終了し、経営者が判断を誤って深みにはまってしまうことを示す代名詞になっていた。
コンコルド効果を懸念せざるを得ないのが、三菱重工業が開発している国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」だ。三菱重工は先月30日、量産化計画を当面凍結すると発表した。
08年に事業化を決めた際、国産旅客機の開発はプロペラ機「YS―11」以来半世紀ぶりとあって、「日の丸ジェット」への期待は大きかった。政府の支援も得てつぎ込んだ開発費用は1兆円規模に膨らんだが、すでに初号機の納入を6度も延期している。

新型コロナウイルス感染拡大で航空需要が冷え込んだ影響もあるが、量産化計画の凍結の主因は開発の遅れだ。配線トラブルによる設計変更、部品調達の難航などに見舞われ、就航に必要となる「型式証明」の取得にさえ至っていない。
量産化に至ったとしても、長期にわたる赤字事業になることは目に見えている。「撤退」の選択肢もあるはずだったが、あくまで「凍結」だという。開発費を大幅に縮減したものの、再起を図る構えは崩さない。いや、崩せないのかもしれない。
筆者がMRJを担当したのは約4年前で、5度目の納入延期を決める前後だった。すでに開発スケジュールが大幅に遅れ、先行きが危ぶまれていたが、当時の三菱重工の幹部がこんな言葉を漏らしていた。
「国家的プロジェクトですからね。始めたからには、何が何でもやり遂げなくてはいけないんですよ」
今思えば、この幹部にはすでにコンコルド効果が働いていたのではないか。ちなみに経済学では「サンクコスト(埋没費用)効果」と呼ばれる。サンクコストとは、すでに投じてしまい、もう何をしても戻ってこない費用のことだ。