個人投資家と株式の遠い距離
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東京株式市場で、日経平均株価(225種)が先月、ついに3万円の大台に乗った。昨年12月2日の小欄で、実体経済とかけ離れた株高を取り上げたばかりだが、その後も騰勢は収まることはなかった。
株高の理由は言い尽くされてきた。コロナ収束後を見据えた期待先行、超低金利であふれた投資マネーの流入――。日本銀行による上場投資信託(ETF)の大量買い入れにも下支えされている。

案の定、本紙を含むメディアの報道は「実感なき株高」との評価が目立った。緊急事態宣言の再発令下、明るい材料は乏しく、上昇基調に疑問を持つ人も多いだろう。

それにしても、なぜ実感がないのか。実体経済とは別に、株式の保有、取引の状況に着目したい。個人の株式との関わりが、あまりに薄いことも背景にあるのではないか。
戦後、証券取引の再開には4年弱を要した。「図説 日本の証券市場 2020年版」(日本証券経済研究所発行)によると、終戦直後から証券界では市場再開の動きが起きたが、連合国軍総司令部(GHQ)が認めず、「取引所空白時代」が生じた。
この間に起こったのが「証券民主化」。1947年12月4日付の読売新聞1面の記事下に、大蔵省をはじめとする「證券民主化委員會」が出した広告=写真=は、幅広い国民が株式を持つよう呼びかけている。

「國民みんなが株式に投資すると…
△今まで財閥や一部の金持に獨占されていた産業が國民全體の利益のために運營され、明るい日本になる。」
株式保有のメリットを列挙し、こうも訴える。
「『國民の一人一人が株主に』なることが理想であり、これを合言葉として證券民主化の一大運動を展開し、日本經濟の速かな安定に寄與することを期する」
「図説 日本の証券市場」によると、解体された財閥の保有株式が市中に大量に放出され、市場全体に占める「個人株主」の比率は一時、69.1%に達した。証券民主化によって、個人と株主の距離は急速に縮まった。
しかし、同書にはこうもある。「いうまでもなく国民は資金に余裕があって株式を購入した訳ではなかったから、直後から売却され、個人持株比率はその後急速に低下した」。再び個人は株式から遠ざかっていく。