堺屋さんが生んだ「街角景気」、変化の胎動か
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「景気はいまだ低迷しているが、変化の胎動が見える」
1998年11月、堺屋太一・経済企画庁長官は、就任から4か月後の記者会見でこう述べた。翌月に提出した月例経済報告でも、景気は「極めて厳しい状況にある」としながらも、「変化の胎動も感じられる」と強調した。

この「胎動」表現を巡り、当時の小渕内閣では疑問や異論が出たという。深刻な不景気の中、官庁が発表する各種の経済指標は落ち込んでいた。堺屋さんも「大臣発言としては異例の大胆さ。事務方の差し出した『発言要旨』には全くない言葉だった」と振り返っている(東京書籍「堺屋太一著作集 第18巻」から)。
しかし、堺屋さんは官庁の統計結果を待たず、企業の機械見積もり要求や建築設計発注といった景気の先行指標になり得るデータを調べたうえで、景気回復の「ある種の予兆をうかがえる」と判断した。実際、99年に入ると回復基調を強め、株価も上昇していく。
作家、経済評論家として幅広く活躍した堺屋さんの先見性を表すエピソードである。
そんな堺屋さんが残してくれた統計が、コロナ時代の「変化の胎動」を示しているのだろうか。
内閣府が今月8日に発表した2月の景気ウォッチャー調査は、3か月前と比較した景気の現状判断指数(DI)が前月から10.1ポイント上昇の41.3となった。2~3か月先の先行き判断指数は前月から11.4ポイント上昇して51.3と、2018年9月以来の50超えとなった。
「街角景気」とも称される景気ウォッチャー調査は、堺屋さんが経企庁長官当時に設計を主導し、2000年に誕生した。まさに「生みの親」だ。現在、政府が発表する経済指標の中では、民間エコノミストの評価が高いことでも知られる。
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は、公表日が早いことを長所の一つに挙げる。前月の25日から月末にかけて調査した結果を、約1週間後に公表している。個人消費の代表的な指標である家計調査が1か月以上、国内総生産(GDP)が約1か月半かかるのに対し、いち早く景気の動きを伝えてくれる。
小売店主やタクシー運転手といった景気の動きに敏感な人たちへの聞き取りが基になっていることも特長だ。景況感の調査として定評のある日本銀行の企業短期経済観測調査(短観)が3か月に1回、しかも経営者への聞き取りであるのに対し、働く人たちの「肌感覚」の景気が毎月分かる。