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「余剰人員」を雑煮の味に

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経済部デスク 松原知基

 舞台は、バブル崩壊後に多くの余剰人員を抱えた大手不動産会社。経営陣は、新設した部署に50人の社員を異動させ、無理な販売目標を課して退職に追い込もうとする。「リストラ要員」とされた社員の運命は――。

映画「集団左遷」の梶間俊一監督
映画「集団左遷」の梶間俊一監督

 作家、江波戸哲夫さんの小説を原作とする映画「集団左遷」(東映、1994年)は、経営陣に対抗し、生き残るために奮闘するサラリーマンたちの姿を描き、共感を呼んだ。梶間俊一監督は、同年4月26日の読売新聞夕刊に掲載されたインタビューで、こう語っている。

 「現在、300万人にも上ると言われる『企業内失業者』などの問題に、無関心ではいられなかった」

 「企業内失業者」とは余剰人員を表す言葉で、当時よく使われた。「失業」と言っても、実際には解雇されているわけではない。昔は「窓際族」、最近では「社内ニート」などとも称される。イヤな言葉だが、景気が悪い時代には常に問題になってきた。

 内閣府が先月末に公表した報告書「日本経済2020―2021」で、国内企業が抱える余剰人員の推計を示した。1回目の緊急事態宣言が出ていた2020年4~6月期には646万人に上り、10~12月期でも238万人と、コロナ前の水準を大きく上回る。

 これは、企業にとって必要な従業員数を、実際の従業員数がどれだけ上回っているかを試算したものだ。ちなみに内閣府は、余剰人員のことを「雇用保蔵」と呼んでいる。「ほぞう」とは聞き慣れない表現だが、「企業内失業」と同義である。

 昨年1月以降、完全失業者は150万~210万人程度で推移しているから、企業内失業者数は実際の失業者数を大きく上回っている。内閣府は「企業が政府の支援策を活用しながら雇用維持を図っている様子がうかがえる」と分析した。

 政府はコロナ禍を受け、従業員に休業手当を支払った企業に助成する「雇用調整助成金」で、助成率や従業員1人あたりの支給上限額の引き上げといった特例措置を導入した。こうした対策が雇用維持につながり、結果的に企業内失業者が増えたのだろう。

 日本企業は米国などと違い、業績が悪くなっても直ちに「首切り」をしないことで知られている。「雇用不安」(野村正実著、岩波新書)では、大企業が雇用保蔵をする四つの理由を挙げている。1998年の著作である。

 (1)高度成長期からバブル期まで、日本経済は長期の不況を経験しなかった。不況が短期で終われば、新規採用にかかるコストより、雇用保蔵コストの方が低い。
 (2)日本では正規従業員の雇用に手をつけると、直ちに会社イメージが悪化する。消費者と直接関係する会社では致命的なダメージになる可能性がある。
 (3)従業員は終身雇用という幻想を信じている。会社が人員整理を行おうとすれば、信頼を裏切られたと感じ、暴力を含む過激な行動に出る。
 (4)過去の大量解雇の経験。高度成長期前に行った大量解雇は労働組合から激しい抵抗を受け、連日のストライキ、デモなど大争議に発展した。

 20年以上たった現在も、こうした指摘は的を射ていると感じる。一時的に業績が悪化したからといって安易に人員削減をせず、雇用を維持しようとする姿勢は、日本企業の間で依然として残っている。

 近年は余剰人員を問題視し、リストラによるコスト削減を迫る「物言う株主」もいる。しかし、転職市場が未熟な日本では、失業がその人の人生に大きな影響を与えることを考えれば、一定の余剰人員を抱えても踏ん張ろうとする慣行は、日本企業の美点といってよいのではないだろうか。「集団左遷」では経営陣の横暴ぶりに反感を持った方が多かったかもしれないが、余剰人員を直ちに解雇しなかった点では、日本企業らしさを持ち合わせていたとも言える。

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1983363 0 デスクの目~経済部 2021/04/14 15:00:00 2021/04/14 15:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210412-OYT8I50013-T.jpg?type=thumbnail

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