「授業のスタイルが社会を変える」~『アクティブ・ラーニング元年度』に思う恩師の実践
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通夜から帰宅すると、永遠の別れを告げてきたばかりの恩師の新刊が届いていた。「アクティブ・ラーニングとは何か」(岩波新書)。日本大教授で、この分野の研究に長年携わった渡部淳先生は、労作の刊行日の前日、病気のため68歳で急逝した。昨年1月下旬のことだ。
新型コロナウイルスの感染拡大が、それほど懸念されていない時期。小学校で新学習指導要領が実施され、討論や発表を活用した「アクティブ・ラーニング」が本格化する2020年度は目前だった。それが一斉休校の中でスタートするとは、先生も想像していなかっただろう。
討論や発表、演劇的手法も駆使した参加型の授業
渡部先生は、約40年前に筆者が通った国際基督教大学(ICU)高校の公民科教師だった。新聞記者になってから、「あの先生の授業は抜群に面白かったでしょう」と共通の知人である大学関係者に言われたことがある。確かに、当時受けた授業はわかりやすく、生徒の考える力を引き出すものだった。しかし、討論や発表を交え、演劇的手法も駆使した授業方式は、その後時間をかけてつくられていったことが、今回の著書を読んでよく理解できた。最も印象深かったのは、「学校での授業のスタイルが、その時代の社会のあり方にまで影響を及ぼす」という先生の言葉だ。その信念のもと、新書は教育関係者だけでなく、広く一般の人に向けて書かれたのだという。

ICU高校は、生徒の約3分の2を海外からの帰国生が占める。創立から間もない1980年代は帰国生が比較的珍しく、海外からの編入に積極的な高校が少なかった。渡部先生は生徒の意識調査にも関わり、海外の学校の様子を聞くうちに、生徒の主体性を重視した授業方式に驚いたそうだ。
たとえば、米国から帰国した女子生徒は、古代史の授業で、シーツなどで手作りした「ギリシャ」と「ローマ」の衣装をまとい、それぞれの時代の「長所、短所」を主張し合うディベートに参加した。「面白さが心の底からわきあがってくるような授業だった」とその生徒は振り返った。
アテネからの帰国生も、討論や模擬裁判、新聞記事を解説する授業などのほか、歴史上の出来事を3分間の劇に仕立てる学習を体験していた。「マルコ・ポーロが帰国後に出会った苦難」といった場面を選び、生徒たちの手でシナリオや衣装を準備したという。学校では、「発表や発言による授業への参加」や「自分をどう表現するか」が重視された。