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スーパーマリオと政党の敗北…イタリア政治が日本に鳴らす警鐘

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編集委員 伊藤俊行

政治家でないドラギ新首相

 スーパーマリオは、政党政治の衰退を告げる。

 新しいゲームソフトのことではない。2010年代はじめの欧州金融危機の際、欧州中央銀行総裁として手腕を発揮し、任天堂ゲームのキャラクターになぞらえた異名をとるイタリアのマリオ・ドラギ新首相のことだ。

イタリアの首相に就任したマリオ・ドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁(右)。左はセルジョ・マッタレッラ大統領(2月13日撮影)=ロイター
イタリアの首相に就任したマリオ・ドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁(右)。左はセルジョ・マッタレッラ大統領(2月13日撮影)=ロイター

 先月19日に正式発足したドラギ内閣に、市場は、新型コロナウイルス、不況、政治混乱の三重苦に直面する同国のゲームチェンジャーになると、期待の声をあげる。その音量の大きさに、スーパーマリオの登場で同国のガバナンスの修復は困難になったと危惧する声は、かき消され気味だ。

 有権者から選ばれるプロセスを経ていない人物が、形式的な政治権限しか持たないはずの大統領から首相に任命されるのは、本来なら異常事態だ。

 確かに、イタリア憲法には、首相の選出手続きについて「大統領が任命する」としか書いていない。ただ、戦後にイタリアが共和制に移行する前の王政時代も含めれば、1993年にイタリア中央銀行総裁だったカルロ・チャンピ氏が首相に任命されるまで、100年以上、国会議員でない首相が誕生した事例はない。歴代大統領が、国会や政党の意思を超越した強権の行使を抑制してきたからだ。

 チャンピ政権が登場した背景には、政治腐敗やマフィアの暗躍で「タンジェントポリ」(汚職都市)と呼ばれた深刻な社会状況がもたらす政治不信の高まりがあった。伝統政党が目先を変えるために再編劇を展開する中、あえて政治家ではない実力者に改革を委ねざるを得なかった特殊事情があった。

 ところが、その後約30年の間に登場したチャンピ氏からドラギ氏まで12人の首相のうち、両氏を含め6人は国会に議席がなく、フィレンツェ市長や民主党幹部を務めたマッテオ・レンツィ元首相を除く5人は政治家ですらなかった。

実現しなかった2大政党制

 なぜ、こんな事態になったのか。

 村上信一郎・神戸市外国語大学名誉教授の言葉を借りれば、「疑似大統領制による政党政治の敗北」ということになる。

 政党が機能不全に陥ったから大統領が乗り出し、政党に任せておいても物事が決まらないから、官僚や学者を引っ張ってくる。尋常ではない。

 政党は、理念や政策目標を掲げ、市民の声をくみとり、政府の施策に反映させていく役目がある。イタリアでは戦後、キリスト教民主党が連立相手を替えながらずっと政権にとどまり、政権を永らえさせるための不公正な利益配分が横行し、一部の勢力の既得権擁護を選挙での票集めの仕組みに組み込んだ長期政権がタンジェントポリの温床になり、政党不信につながったと言われる。

 その反動で政界再編と政治改革が始まり、英国を理想に「政権交代のある2大政党制」を目指した小選挙区比例代表並立制(以下、並立制)が導入された。ところが、ポピュリストや人気ある自治体の首長による「パーソナルパーティー」(個人の党)が乱立し、多党状況は解消されるどころか、一層、進むことになった。

 価値観の多様化に伴って政党の数が増えたというのなら、まだ得心がいく。そうではなく、人気取りにたけたカリスマ的指導者が政治を振り回し、各党が有権者そっちのけで合従連衡を繰り返していれば、政治や政党への信頼が回復するはずもない。そうこうしているうち、既存政党や代議制そのものを否定する主張で人気を得た「五つ星運動」が、政権の真ん中に座るまでになった。その過程で、政治家ではない首相が何人も誕生し、ドラギ内閣は極右から左派までの「大連立政権」として発足した。

 まさに、政党政治の敗北と言っていい。

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1886480 0 編集委員の目 2021/03/05 10:00:00 2021/03/05 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210303-OYT8I50053-T.jpg?type=thumbnail

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