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ロンドン五輪開会式盛り上げた 英国のおっさんが誇る国民保健サービス

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編集委員 阿部文彦

ブレイディみかこ『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』(筑摩書房)
ブレイディみかこ『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』(筑摩書房)

 2012年に開催されたロンドン五輪。日本の医療関係者で話題になったのが、開会式で英国の国民的財産として、国民保健サービス(NHS)が大々的にPRされたことだ。世界各国で放映される華やかな開会式に、地味な医療制度がなぜ登場するのか。医療制度を担当していた記者も驚いた。しかし、先日、英国在住のコラムニスト、ブレイディみかこさんの近著「ワイルドサイドをほっつき歩け」を読み、よくわかった。NHSは何より、英国人の誇りなのだ。2021年は、日本の国民皆保険制度発足から60年の節目の年にあたる。東京五輪の開会式に登場するなんてことはあるのだろうか。

創設から73年、医療費自己負担は無料

英国在住のブレイディみかこさん
英国在住のブレイディみかこさん

 1948年に創設されたNHSは、「ゆりかごから墓場まで」という英国の手厚い福祉を象徴する医療制度だ。一般医(GP)をいったん受診するシステムのため、急を要する場合を除き、専門医の診察や手術を受けるのに数か月かかるが、医療費の自己負担は無料だ。近年は保守党政権による緊縮財政で、GPの待ち時間さえも長くなっているという。正直、一定の自己負担はあるが、自由に医療機関を受診できる日本の皆保険制度の方が使い勝手が良く、優れているような気がするが、英国人にはほかの国家制度に比べてもとりわけ大切なものらしい。

 なぜか。「ワイルドサイド」を読んで、()に落ちた。この本は、英国人の「おっさん」を夫とする著者のエッセーである。労働者階級のおっさんが大勢登場する。運転手のサイモンは、ロンドンでのデモで「俺たちのNHSは渡さない」とのプラカードを掲げた。ちょうど、英国が欧州連合(EU)離脱を目指すブレグジット問題が国内を二分していた時期。米国のトランプ前大統領が、英国がEUを離脱した場合は、通商交渉でNHSも議題に上ると発言したため、冷酷無比な米国の保険会社が英国に進出し、無料の国家医療制度が民営化されるとの懸念が英国民に広がった。労働者階級には、資本家の搾取から守ってくれる「俺たちのNHS」の危機は見逃せなかったのだ。

ロンドン五輪の開会式。「俺たちのNHS」が大々的にPRされた(2012年7月)
ロンドン五輪の開会式。「俺たちのNHS」が大々的にPRされた(2012年7月)

 著者の連れ合いもやはり労働者階級で、頭痛持ちのがんサバイバーだ。がんの再発を心配し、専門医のアポを取ったが、診察まで9週間も待たなければならない。そこで、著者は一計を案じた。全額自費になる民間病院での受診を連れ合いに勧めたのだ。しかし、「それじゃ()けた気がして」と一言で断られた。そこまで、NHSへのおっさんの愛は深い。多分、おっさんに限らない話だと思うが。

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1995466 0 編集委員の目 2021/04/20 10:00:00 2021/04/20 10:08:18 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210412-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

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