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「映画から考える社会保障」 パート2

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編集委員 猪熊律子

 昨年、「映画から考える社会保障…実はとっても身近な話」を書いた。その続きで、今回は2本の映画を取り上げたい。

 1本目は英国の巨匠、ケン・ローチ監督の「わたしは、ダニエル・ブレイク」。あれ、前にも出ていたのでは、と思われた方がおられるかもしれない。同監督の別の作品を紹介した時に少し触れたが、今、関心を集めている「生理の貧困」に関係するので、改めて取り上げたいと思ったのだ。

高校・大学生らの2割が「生理用品を買うのに苦労」

2016年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した「わたしは、ダニエル・ブレイク」 提供:バップ、ロングライド 発売元:バップ(c)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016
2016年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した「わたしは、ダニエル・ブレイク」 提供:バップ、ロングライド 発売元:バップ(c)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016

 経済的な事情で生理用品を十分に手に入れられないなどの状態を「生理の貧困」という。「日本でそんなことが?」と思われがちだが、生理の啓発活動をしている団体が2~3月にネット上で実施したアンケートでは、高校生や大学生ら約670人中、5人に1人が「過去1年に金銭的理由で生理用品を買うのに苦労した」と回答した。また、トイレットペーパーなど「他のもので代用したことがある」人は3割近くに上った。コロナ禍で状況は深刻化しており、この問題は国会で取り上げられ、生理用品を無償で配る自治体や、割引価格で販売するコンビニが出てきている。

「生理の貧困」を伝えた読売新聞の記事(2021年3月24日朝刊)
「生理の貧困」を伝えた読売新聞の記事(2021年3月24日朝刊)

 「生理の貧困」への取り組みは海外の方が早い。とりわけ英スコットランドは、低所得層に生理用品を配るプロジェクトを2017年から一部地域で始め、それを全土に拡大した。きっかけの一つとされるのが、16年に公開された「わたしは、ダニエル・ブレイク」だ(スコットランドでは今年、誰でも生理用品を無償で手に入れられる法律が成立した)。

生命や尊厳にかかわるものが手に入らなかったら…

 では、映画のどんな場面がきっかけとなったのか。

 映画の主人公は、心臓発作により、医師から大工の仕事を止められた50代の実直な男性、ダニエル・ブレイク。彼と職安で知り合った若きシングルマザー、ケイティは、生活に困窮し、ある日、スーパーで生理用品を万引きしてしまう。これより前の場面では、フードバンクを訪れたケイティが、期待した生理用品を得られなかったというシーンも出てくる。脚本家のポール・ラヴァティ氏は、実際に購入に苦労した女性に会って脚本を執筆したという。

 フードバンクでは、こんな場面もある。食料品の缶詰を受け取ったケイティが、空腹のあまり、その場で缶を開けてむさぼるように食べ始め、我にかえって「惨めだわ」と泣くシーンだ。生理用品や食品など、人間の生命や尊厳にかかわるものが手に入らなかった時、人はどれほど傷つくか。ラヴァティ氏やローチ監督はスクリーンを通し、さりげなく、しかし、鋭く告発していたというわけだ。

社会保障の給付を絞った時、何が起きるか

「わたしは、ダニエル・ブレイク」の一場面。フードバンクで泣き出すケイティに寄り添うダニエル (c)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016
「わたしは、ダニエル・ブレイク」の一場面。フードバンクで泣き出すケイティに寄り添うダニエル (c)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016

 ダニエルの方も大変だ。働けず、国の援助が必要なのに、理不尽な審査で「就労可能」と判断され、手当が打ち切られてしまう。また、求職関係の手続きをしようにも、申請は「オンラインでのみ」と言われ、パソコンを使えない彼は途方に暮れる。

 福祉や雇用につながることを極力、阻止しようとする役所の非情さ、冷酷さが描かれる。他方、窓口の職員がそうせざるを得ない背景についても思いを巡らせながら鑑賞すれば、一層、作品に深みが増す。緊縮財政路線から社会保障の給付を絞った時、それはどんな結果をもたらすのか。国が信用できないと思った時、人はどんな行動を取るのか。そもそも、社会保障は何のため、そして誰のためにあるのか――。濃密な100分間を通し、ケン・ローチ監督からたくさんの宿題をもらった気になる。

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2019877 0 編集委員の目 2021/04/30 10:00:00 2021/04/30 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210428-OYT8I50036-T.jpg?type=thumbnail

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