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台湾有事の「ある」「ない」論争

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編集委員 伊藤俊行

二者択一で答えられない問い

 将来の見通しを尋ねられると、答えに願望が交じることがある。

 東アジア情勢の最大の関心事となっている「台湾有事」もそうだ。とりわけ、「あり得ない」と断定する場合は、現実の国際情勢に基づいた根拠の明確な結論というよりも、「あってほしくない」という願望が、見なければいけない要素から目をそむけさせている側面があるように思える。

4月16日に行われた菅首相(右)とバイデン大統領(左)の首脳会談
4月16日に行われた菅首相(右)とバイデン大統領(左)の首脳会談

 そんな日本国内の空気を変えたのが、4月16日にワシントンで行われた菅義偉首相とジョー・バイデン米大統領との会談だった。

 共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」の中には、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」という一文が盛り込まれた。日米首脳会談の成果文書に「台湾」と明記されたのは、1969年の佐藤栄作首相(当時)とリチャード・ニクソン大統領(同)の会談以来という事実を踏まえ、「米国が中国の台湾侵攻を真剣に警戒していることの表れだ」として、台湾有事が現実に差し迫っているとする受け止め方が広がった。

 もちろん、「対立をあおるべきではない」などとして、過剰反応を戒める意見も多い。その分、論争が活発になっている。

 少なくとも、「ある」「ない」の二者択一では答えにくい問いに対し、願望先行で思考停止に陥るのではなく、客観的な議論が始まったことは前向きの変化だ。現状に照らし、「ある」と「ない」の間の濃淡を探る作業が、大切になる。

「将」たちが抱く危機感

 台湾有事に対する米国側の警戒感は、日米首脳会談に先立つ3月9日の米上院軍事委員会でのインド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官の具体的な時間軸をあげての証言に表れている。

菅首相(右)と握手するデービッドソン米インド太平洋軍司令官(2020年10月)
菅首相(右)と握手するデービッドソン米インド太平洋軍司令官(2020年10月)

 「中国が、米国主導で築いてきた『法の支配』に基づく国際秩序を力ずくで変える野望を加速させていることを憂慮している。これまでの2050年までという目標は、前倒しされた。台湾に関する野望は、それより早く実現を目指しているものの一つで、10年以内に、実際には次の6年で、脅威が顕在化すると思う」

 司令官の見通しに従えば、27年までに中国が台湾を「力ずく」で統一しようとする可能性がある。

 中国共産党の次の最高指導部の態勢は、22年秋の共産党大会で決まる。そこで(シー)近平(ジンピン)国家主席が最高権力者の地位を維持し、再選制限が撤廃された国家主席の肩書を2期目が満了する23年3月以降も持ち続けるとすれば、少なくとも5年後の27年党大会まで、習氏は権勢のただ中にある。

 そう考えると、「6年」という時間軸の明言は、「習氏に権力が集中している間が危ない」と言ったのにも等しい。習政権になってからの中国の国際社会での振る舞いに対する米国の不信と不満を、反映しているのだろう。

 もっとも、日本で安全保障の最前線に立ってきた人々の目には、米国の危機感の高まりも、「やっと重い腰を上げた」と映るようだ。今ほど台湾有事への関心が高まる以前から、現場ならではの強い警戒感を抱き、やきもきしていたからだ。

 航空自衛隊補給本部長を務めた尾上定正・元空将は、中国の台湾侵攻は「24年までが危ない」として、事態はより切迫していると警鐘を鳴らす(『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』。岩田清文、武居智久、尾上定正、兼原信克共著。新潮新書)。

 理由の一つは、経済だ。尾上氏は「コロナ危機と米国の各種制裁で中国の経済成長が難しく」なり、経済成長によって世論の不満を抑え込む「共産党統治の正統性を支える土台が揺らぐ」ことになれば、「正統性を強める意味でもよりいっそう、台湾併合へのインセンティブ(注・動機付け)が働く」と分析する。

 同書は、バイデン氏が大統領選で勝利を収める以前のドナルド・トランプ政権当時に行われた対談をもとにしているものの、米中対立の激しさも、米国の台湾支援の強化も、政権交代にかかわらず継続されている数少ない要素だけに、説得力は失われていない。

 岩田・元陸将、武居・元海将、兼原・元国家安全保障局次長も、以前から台湾有事への危機感を抱いていたことを、それぞれの経験に基づき語っている。岩田氏が陸上幕僚長を退官した後、19年に刊行した著書『中国、日本侵攻のリアル』(飛鳥新社)で描かれた台湾有事のシミュレーションでは、サイバー攻撃や台湾に紛れ込ませた工作員による攪乱(かくらん)などを複合させて台湾侵攻の正当化を図る戦術を採る可能性に触れていて、震撼(しんかん)させられる。

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2107603 0 編集委員の目 2021/06/08 10:00:00 2021/06/08 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210604-OYT8I50020-T.jpg?type=thumbnail

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