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脱炭素社会、野心的な目標と現実とのギャップ

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編集委員 倉貫浩一

 国際エネルギー機関(IEA)は5月、2050年までの世界の温室効果ガスの排出量実質ゼロに向けた工程表を発表した。IEAが描く将来像はかなり野心的だ。電力供給の90%を再生エネが占め、原発が10%以下になるという。石油、ガス、石炭など化石燃料の新規開発投資は不要になるとの見方も示している。

    ◆IEAのリポートの概要◆
  • ▼一次エネルギーは、2050年に再生可能エネルギーが約70%を供給
  • ▼電力の需要は50年に現在の2.5倍に増加
  • ▼電力供給について再生エネの比率は50年に90%。原子力は10%以下に
  • ▼化石燃料については石油、ガス、石炭ともに今後の新規開発は不要

新技術の実用化間に合わず、30年の目標達成は不透明な日本

 そもそも日本の発電量に占める再生エネの比率は現在、20%程度にとどまっている。30年先の話ではあるが、天候や時間帯によって発電量が大きく左右される再生エネが電力供給の大半を担う姿は想像しにくい。化石燃料の新規開発投資をやめた場合、原油や天然ガス価格が短期的に高騰し、資源を持たない日本の経済への影響は避けられない。中東など産油国の政治経済情勢などの混乱も懸念される。脱炭素社会の実現への取り組みは避けられない課題だが、IEAのリポートについて、識者の間では実現可能性に懐疑的な見方が少なくない。

地球温暖化対策推進本部であいさつする菅首相(左)=2021年4月22日、首相官邸で
地球温暖化対策推進本部であいさつする菅首相(左)=2021年4月22日、首相官邸で

 菅首相は50年の温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す方針に加えて、30年度に13年度比46%削減という非常に高い目標を掲げた。IEAのリポートと同様に、専門家から、達成はかなり難しいとの声が聞かれる。論点はいくつかあるが、30年度までに残り9年しかなく、水素の活用、二酸化炭素の貯留や有効利用など新技術の実用化による削減効果があまり期待できないことが大きい。温室効果ガスの排出を短期的に削減するには、再生エネを増やすことが必要で、建設期間が短い太陽光発電に頼らざるをえないが、適地が少なく、建設コストが高い。

風力発電に有利な立地、22年原発ゼロを視野に入れたドイツ

 温暖化防止に向けて高い目標を掲げ、実現を目指すことは重要だ。実際、ドイツは1998年に脱原子力と再生可能エネルギーの拡大を打ち出し、22年の原発ゼロ目標を達成する見通しだ。当時、温室効果ガスを出さない原発なしで温暖防止対策は難しいことや発電コストの増加などの点から脱原発の達成は厳しいという意見は多かった。「地球環境産業技術研究機構」の秋元圭吾主席研究員は、「ドイツの原発ゼロを後押ししたのは、風力発電の増加が大きな要因」と指摘する。安定した風が一定方向から吹く立地の良さがドイツの風力発電の普及を助け、原発ゼロに貢献した。沖合に建設される洋上風力など、より大規模で発電効率の高い設備の導入が進んだことも追い風になった。

 だが、日本はドイツと異なり、風力発電に適した土地が少なく、建設コストも高い。何より、他国と陸続きのドイツは、電力が足りなくなっても、欧州全域に広がる送電網を通じて電気を供給してもらえる。

 脱炭素社会実現に向けた野心的な目標を掲げることは重要だが、30年度・46%削減は、国によって大きく異なる電力事情を踏まえて問題点を丁寧に議論し、修正を加えていく柔軟性も必要ではないか。

プロフィル
倉貫 浩一( くらぬき・こういち
 1989年入社。さいたま支局を経て、94年から経済部で財務省、総務省、銀行など産業界全般を担当。論説委員を経て、2018年から編集委員。バブル崩壊から平成の日本経済の浮沈を取材してきた経験から、新型コロナウイルス感染拡大後は、企業経営や雇用問題、エネルギー問題などの取材に取り組んでいる。

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2142719 0 編集委員の目 2021/06/22 10:00:00 2021/06/25 14:21:25 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/suga-eye-catch.jpg?type=thumbnail

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