読売新聞オンライン

メニュー

コロナ禍と新語、流行語 「3密」から「うっせぇわ」へ

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

編集委員 伊藤剛寛

 コロナ禍の影響が続く。健康や医療はもちろん、政治、経済、スポーツ、文化、暮らしなど広い範囲に及ぶ。「言葉」もそのひとつだろう。

続々誕生、コロナ関連の硬い新語や流行語

新型コロナウイルスワクチンの大規模接種会場(東京・大手町)
新型コロナウイルスワクチンの大規模接種会場(東京・大手町)

 「社会問題に関係する硬派の新語、流行語が、これだけまとめて出たのは非常に珍しい例です」

 梅花女子大学の米川明彦名誉教授は、この1年半のコロナ禍を振り返る。長年、流行語や若者言葉など俗語の研究を続けている。1995年の阪神・淡路大震災や2011年の東日本大震災でもこんなことはなかった。「しかし、耳で聞いてすぐに分からない言葉が多すぎます。高齢者を含め多くの人が共有できるものではありません」

 クラスター、オーバーシュート、ワーケーションなど外来語が増えた。外来語だけでなく、最近多用される「人流」という漢語、「打ち手」という和語も「注射する人」という意味ではこれまで聞いたことのなかった言葉だ。「コロナ禍」も聞いただけでは分かりにくく、話し言葉としては抵抗があるという。数少ない傑作が「3密」。日本人が好きな「3」を取り入れ、スローガンにはもってこいだった。今では使われなくなったが、「アベノマスク」も皮肉が利いていると評価した。

2020年7月25日付、読売新聞朝刊より
2020年7月25日付、読売新聞朝刊より

 昨年の夏頃、すでに大量のコロナ関連語が社会にあふれていた。100近くの語を7月の特集記事で紹介した。読売新聞オンラインでも掲載している。

2020年12月2日付、読売新聞朝刊より
2020年12月2日付、読売新聞朝刊より

 昨年の「ユーキャン新語・流行語大賞」はコロナ関連が席巻した。
 年間大賞は「3密」。トップテンには「アベノマスク」「アマビエ」「オンライン○○」「Go Toキャンペーン」などが入った。「新しい生活様式」「おうち時間」「クラスター」「自粛警察」「濃厚接触者」なども候補に挙がるなど、コロナ関連語のオンパレードである。

 コロナ関連の印象深い言葉は、その後も相次いで登場している。
 「路上飲み」「越境飲み」「変異株」「まん延防止(まんぼう)」「マスク会食」「人流」「打ち手」「職域接種」「第三者認証」など枚挙にいとまがない。

印象に残るコロナ関連の言葉は続く……
印象に残るコロナ関連の言葉は続く……

共通項は「場違い感」…気になる「人流」「打ち手」「豪奢品」

 違和感を覚えるコロナ関連の言葉がいくつかあり、その理由を考えてきた。「新しい生活様式」「おうち時間」「夜の街」などだ。「新しい生活様式」は昨春、専門家が突然発表した。「おうち時間」はすっかり定着した感がある。「夜の街」は今ではあまり使われなくなったが、違和感の度合いは突出していた。

 共通しているのは、従来使われていた場面などとの食い違い、いわば「場違い感」だ。「生活様式」はもともと、学術用語。広辞苑は「生物の生活の仕方。生息場所や行動、栄養の摂取法、繁殖の仕方などを総合的にとらえる場合にいう」と説明している。手洗いやマスクなどの「生活習慣」を指すには大げさな感じがする。逆に「おうち」は、子どもの言葉という印象が強い。知事らが、記者会見など公の場で使うことはあまりなかったはずだ。ニュース番組で、「夜の街」が頻出した際には、「昭和歌謡のような雰囲気の言葉」という指摘もあった。これも記者会見やニュース番組で耳にする語ではなかったのではと思う。次第に「夜の繁華街」などに言い換えられるようになった。

 最近気になるのは「人流」。主な国語辞典を調べてみたが、採録されていない。「物流」に対する専門用語として使われていたようだが、特に話し言葉では分かりにくい。「人の流れ」で通じるだろう。
 「打ち手」は、一般に、打つという動作をする人のこと(日本国語大辞典)。鉄砲、太鼓、ばくちなどについて使われてきたが、注射に用いたのが新しさであり、違和感の原因だろう。ただ、こちらは良い言い換えが思い浮かばない。
 デパートの営業規制の際に使われた「 (ごう)(しゃ)(ひん) (非常にぜいたくな品)」も気になった。

 いずれも不意打ちのように現れ、聞いている人を戸惑わせる。
 米川名誉教授が危惧するのが、コミュニケーションへの影響だ。広い世代が共有できない言葉はこれを妨げる。専門家が分かればいいというものではない。特に困っているのが手話を使っている人。手話は手の動きだけでなく表情が重要だ。マスクで口元が隠れ、コミュニケーションが十分に取れない。

 「重要なのは伝えることではなく、通じ合うこと。相手を理解したい、相手からも理解されたいという思いがコミュニケーションを支えています。この思いがないと、言葉は独りよがりで、自己満足的なものになっていきます」

今年は見当たらないコロナ関連の流行語

 今年も半年が過ぎた。上半期の流行語も発表されている。

インスタ流行語大賞、今年上半期と昨年上半期の比較
インスタ流行語大賞、今年上半期と昨年上半期の比較

Ado「うっせぇわ」のジャケット画像(ユニバーサル ミュージック提供)
Ado「うっせぇわ」のジャケット画像(ユニバーサル ミュージック提供)

 「Petrel 2021年上半期インスタ流行語大賞」は、若者らによるインスタグラムの投稿数などを基準に、独自に選定した。1位は、「うっせぇわ」。女性シンガーAdoの曲のタイトルであり、歌詞でも連呼する。おそらく、通年でもランクインするだろう。

 「お疲れサマンサ」はマンガのキャラクターのセリフ。「骨格タイプ」は、話題のスタイル診断から。「クリティカルヒット」はお笑いコンビの芸から。「推しグラス」は、好きなタレントなどの名前をグラスに貼ることという。「うっせぇわ」以外は知らなかった。

 昨年上半期の流行語と比べると、違いが歴然としている。昨年は1位こそ「ぴえん(軽い悲しみを表す言葉)」だが、「おうちカフェ」「おうち時間」「密です」など、コロナ関連がしっかり入っている。今年は見当たらない。

 コロナ禍は収束にはほど遠いが、強く耳目を集める言葉が減ったのか、若者の関心がコロナからそれ以外に移ったのか。「緊急事態」がほぼ常態化する毎日に慣れてしまったのかもしれない。

 感染予防については、若者への批判が強くなった。それは一部の若者の行為に過ぎず、全体への非難は当たらないという反論もあった。そんな世相の中、「うっせぇわ」の1位は、示唆的でもある。

 今年の後半は、東京オリンピック・パラリンピック、衆議院選挙といった大きな出来事も控えている。残る半年で、どんな新語や流行語が現れるだろうか。

 *コロナ関連語を紹介したサイトは こちらです

プロフィル
伊藤 剛寛( いとう・たけひろ
 1965年生まれ、88年入社。生活部では、子育てや食など身近な暮らしの問題を取材。家庭面で、言葉にまつわる話題を紹介する「言の葉巡り」を月1回連載中。好きな新聞のコーナーは「こどもの詩」。

無断転載・複製を禁じます
2171105 0 編集委員の目 2021/07/02 10:00:00 2021/07/02 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210630-OYT8I50020-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)