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この<まち>の下の記憶(3)…人類最大の発明

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編集委員 清水美明

 前回スマホを手にして旅をするのが楽しいとか書いておいてどうかと思うが、原稿用紙と手書きがまだ許されていて、携帯電話も肩掛けだった時代から社会人を始めたようなわたしの場合、いつだってスマホと決別する自信がある。ちょっとした調べ物は図書館でやるものと腹をくくれば、パソコンとだってさよならできる(はずだ)。けれど、朝から晩まで肌身離さずにいる若い人や、降りるときですら画面から目を離そうともしない電車の乗客に関する限り、スマホがない生活など想像すらしたことがないだろうと思われる。

まちとの共生あるいは依存

東京都心から富士山ろくまでびっしりまちがへばりついているようだ(右は東京スカイツリー、2019年撮影)
東京都心から富士山ろくまでびっしりまちがへばりついているようだ(右は東京スカイツリー、2019年撮影)

 わたしにとっては便利な道具にすぎないスマホでも、彼らにしたら、利便や知識の入り口としてではなしに、世界や趣味、現在の友達や未来の知人とつながるコミュニケーションの窓口として、あるいは自己の一部のように大切なのだろう。人類が過去これほどまで肌身離さず体に密着させて持ち歩いた道具なんて、下着を除けば、お守りやロザリオくらいじゃないのか(宗教はかつて有力なコミュニケーションツールでもあった)。しかし、もうひとつ、人類がつくり出した画期的な人工物がある。<まち>だ。

 この場で都市の起源を語るつもりもその技量もないけれど、ひとつ確認しておきたいのは、形成のきっかけや経緯はともかく、まちは人類がその場にとどまるためにこしらえた発明品、大きな道具、仕組みだったという事実だ。人が集まる施設や市場、たくさんの仕事、住宅街、交通の結び目……。ところがそれがいまや、自然にできたものでもないのに、当たり前の風景のように、意識されることなく、そこらじゅうにあふれ、溶け込んでいる。環境化している。

 この連続コラムで書いてきた通り、まちの下に、記憶から消えたたくさんの出来事が眠っていても、わたしたちは気にもせずに暮らすことができて、それでいて、そのまちで暮らしていることにアイデンティティーのようなものを感じ取ったりする。一方、そういう人がたくさん暮らすことで、まちは新陳代謝を続けてよりまちらしくなり、さらに人を呼び寄せる場所になる。人とまちのこの結びつきは、共生関係または相互依存的だ。スマホ依存症やスマホ脳なる困った問題があるのなら、かつてもマチ依存やマチ脳みたいな困った問題があって、それが時代とともに環境化し、今日の共生にいたったのではないかとも想像したくなる。いまこう問われたら、わたしたちはどう答えるだろう。まちなしで生きていけますか?

メガシティ、成長する「ふしぎな生命体」

 国連の「世界都市化予測」(2018年改訂版)によれば、18年時点で世界の人々の過半数が都市部で暮らしているという。戦後間もない1950年では3割程度だったらしいから、都市化が恐ろしい勢いで、かつ地球規模で進んでいる。そして2050年には7割に肉薄する、というのが国連の予測だ。プラネタリー・アーバニゼーションという言葉を耳にしたこともある。まさに惑星スケールで都市化が進行している。

世界都市地図(上が1970年、下が2030年の予測)。人口1000万超の都市を示す赤色の丸は、1970年には数えるほどだった=国連「World Urbanization Prospects 2018」から
世界都市地図(上が1970年、下が2030年の予測)。人口1000万超の都市を示す赤色の丸は、1970年には数えるほどだった=国連「World Urbanization Prospects 2018」から

 統計データをまとめた 地図 などを見ると、なかでも東京首都圏は特異だ。国連が「メガシティ」と呼ぶ人口1000万人規模の巨大都市のうち、東京(大都市圏)は3700万人で世界最大。人があふれかえっている印象が強いインド・ニューデリーですら3000万人に届いていない。慶応大教授の安宅和人さんが、昨夏都内で開かれた経済同友会のセミナーのパネルディスカッションで、こんな都市は世界でここだけだ、と東京都市圏の異様さを何度も強調していたのが印象に残る。その発言の意味するところは、新幹線に乗ったり、空撮映像を見たりして、まちの端っこを探してみると理解できるだろう。一点の都市に人が集まっているというより、突出した人口密度の都心を核に、びっしりとまんべんなく都市部が増殖しているのが東京大都市圏なのだ。そういえば、本紙編集委員を務めた大先輩の作家日野啓三さんはあるエッセーのなかで、東京を「不断の成長と変貌のエネルギーを秘めたふしぎな生命体」と呼んでいる。

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2255544 0 編集委員の目 2021/08/03 10:00:00 2021/08/03 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210728-OYT8I50083-T.jpg?type=thumbnail

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