この<まち>の下の記憶(8)…土地と倫理

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編集委員 清水美明

 パリ在住の建築家・田根剛さんのデザインに刺激を受けて、2回にわたって建築を補助線にしながら土地について考えてきた。ぼくにとって最大の収穫は、ものを作る人のなかに、自分のスタイルの適用よりも、その土地その場所のためにデザインを決めると腹をくくっている人物が少なくとも一人いる、という知見を得たことだ。田根さんという存在に勇気をもらったので、今回は、ある問題提起をしてみようと思う。こうだ。ぼくたちは土地に対するこれまでの感覚をそろそろ更新するべきなのではないか――。

新しい形や方向を模索する

 弊紙が新年から連載を始めたように、資本主義が岐路に立っている。正確には、資本主義そのものというより、グローバリズム・テクノロジー・デジタル化に駆動されたハイブリッドな資本主義が、人間社会を岐路に立たせている。ちょうど500年前にマゼラン艦隊の一部が世界一周を果たしたグローバリズムの初期とは比べものにならない速度で、とくにここ100年、あらゆる事物が拡散するようになって、マルクスたちの想定とは違う形で社会をゆがませているのだ。

気象衛星「ひまわり8号」が1月15日にとらえたトンガの火山噴火(中央上部)。地球に浮かんだ色つきの雲のようだ(情報通信研究機構=NICT提供)
気象衛星「ひまわり8号」が1月15日にとらえたトンガの火山噴火(中央上部)。地球に浮かんだ色つきの雲のようだ(情報通信研究機構=NICT提供)

 しかし、この100年の間にぼくたちは、自分という存在やこの足元のことを着実に深く理解するようになった。現生人類がネアンデルタール人と交雑していることを知ったし、宇宙のある程度の成り立ちもわかってきたし、地球が十数枚のプレートでできている有力仮説にも到達した。イレギュラーな温暖化という地球理解も、そうした知的成果のひとつだ。温室効果ガスの排出とその知見は、人間の営みにおいて微妙な表裏関係にある。そういう意味でも、ぼくたちは岐路に立っている。もはや手がつけられないとあきらめるだけでなく、ハイブリッド資本主義によって得られた知見もふまえ、新しい形や方向を模索する道が残されている、そういう岐路だ。

 途方もないところから話を始めてみよう。思考実験のように思われるかもしれないが、本当の話だ。

東京―福島が1秒!…気の遠くなりそうな集団移動の旅

 惑星科学者たちによれば、ぼくたちが住んでいる太陽系は、天の川銀河の巨大な渦にのまれて集団移動しているある種の群れだ。速度は時速80万キロとかいうまったく想像力が及ばない数字なので、単位を変え、果てしない空間のなかをどでかい塊が、東京から福島あたりをわずか1秒で突き進む、そんな様子をとりあえずイメージしておく。1周2億年スケール、万光年の旅。その途中には脱出するのに100万年単位の時間を要する巨大分子雲という危険な領域もあるのだとか。地球が生まれてから46億年なので、単純計算すると20周以上回ったことになる。

 地球は、この気の遠くなるような集団移動の旅につき合わされながら、その集団内では、1年かけて太陽を1周する公転の旅も繰り返していることになる。こっちの1周は時速11万キロ。1秒で東京から横浜まで移動するスピードだ。視点次第では、長い散歩の間ずっと、ちょろちょろと尻尾を振って飼い主の周りを動き回る犬のようなイメージ(この際、リードのねじれは無視)が浮かんでくるかもしれない。

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2700182 0 編集委員の目 2022/01/25 10:00:00 2022/03/28 12:35:52 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/01/20220119-OYT8I50061-T.jpg?type=thumbnail

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