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「塾講師は教育者ではなく、サービス業です」――。昨年秋から年末にかけて放送されたテレビドラマ「二月の勝者―絶対合格の教室―」(日本テレビ系)は中学受験対策の進学塾を舞台に、柳楽優弥さん演じるカリスマ塾長が講師に説く姿が印象的だった。原作の人気漫画にも同様の場面が登場するが、実際、企業などが運営する学習塾は文部科学省の所管ではなく、経済産業省がサービス産業として位置づけている。塾の指導のあり方に文科省や教育委員会が直接口を出すことは、ほとんどない。

2023年度に発足する「こども家庭庁」は幼児教育や子どもをめぐる様々な問題で縦割り行政の解消を目指すが、いまのところ、塾のあり方については話題に上っていないようだ。学習塾、進学塾は学校の外にありながら、公教育を補完している面があり、受験競争を過熱させがちな傾向もある。これを機に、「学校外の教育」の役割やあり方について、改めて論議する価値はあるのではないか。
競争過熱で長引く通塾時間、多額の費用…こども家庭庁発足を機に実態把握を
今の若い世代には考えられないだろうが、塾通いに、そこはかとない「後ろめたさ」がつきまとう時代があった。抜け駆けしているというわけではないが、学校で教師に堂々と言うのがはばかられるような風潮が昭和期には確かにあった。
いまも多少なりともその雰囲気が残っているのが、中学受験の対策をする進学塾かもしれない。小学校での学習だけではとても太刀打ちできない内容が出題されるため、大半の子どもが塾に頼らざるを得ない。学校では受験そのものに否定的なムードこそ薄れてきたとはいえ、直接教師が関わることはほとんどないだろう。
中学受験は首都圏、近畿圏などの大都市部に限ったものとされてきたが、最近は地方で公立中高一貫校が増え、私立校の人気も高まっている。大都市では近年、少子化の中で中学受験者数が増加傾向にあり、児童の3割以上が受験する公立小学校も少なくない。
気にかかるのは、進学塾の間の「競争」を教育的観点からウォッチしている存在が見当たらないことだ。中学受験では難関校への合格者数が塾にとって大きな宣伝効果を生む。学年が進行するとともに塾の授業時間は夜遅くまで延び、週末も講座が開かれる。費用も学年を追うごとにかさみ、家庭の負担は重い。塾のホームページには、こうした詳しい情報は見当たらないことが多いようだ。

私立中高一貫校の関係者からは「塾が子どもと保護者の窓口なので、関係を悪化させたくない」との声も聞かれ、指導のあり方に意見を言うようなことは難しいという。公私立ともに高校入試をやめて完全中高一貫化する学校が増え、受験時期がますます早期化している影響も大きい。「親の勝手」で済ませてしまえば、家庭の経済事情による教育格差も広がるばかりだ。
少なくとも教育行政が塾業界や私学関係者らと連携し、子どもや保護者への様々な意味での負担について情報交換をすべき時期が来ているのではないか。
新設されるこども家庭庁では、幼児教育や子どもの貧困といった厚生労働省が所管する問題への対応が主軸になる見通しだ。学校教育はもちろん、学校でのいじめの問題についても引き続き文科省が担当する。こども家庭庁は「塾や習い事など学校外でいじめが発生した場合に対応する」というが、いじめに限らず、学校外の子どもの学習や生活の環境について広く実態を把握することも考えてよいだろう。
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