<大正から昭和へ>第1回 講和会議と「五大国」

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

調査研究本部主任研究員 浅海伸夫

パリ講和会議

 第1次世界大戦の講和会議は1919(大正8)年1月18日、フランスのパリで始まりました。原内閣が成立して約3か月半後のことでした。参加は32か国で、戦争に敗れた同盟国側は招かれず、革命後のソ連は参加しませんでした。アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、そして日本の5か国が、重要事項を決める最高会議を構成し、日本は世界の「五大国」の一角を占めることになりました。

フランス外務省「時計の間」で行われた講和会議開会式(The New York Public Library蔵)
フランス外務省「時計の間」で行われた講和会議開会式(The New York Public Library蔵)

 各国の全権代表は、ウィルソン米大統領、ロイド・ジョージ英首相、クレマンソー仏首相、オルランド伊首相、日本は西園寺公望・元首相でした。

 原首相が全権にならなかったのは、米・英・仏・伊に比べて日本はヨーロッパ事情に通じておらず、語学のハンディキャップも加わって、何ほどのこともできない、という現実的な判断からでした。(伊藤之雄著『原敬』)

 しかし、原は、世界の大変動に鈍感だったわけではありません。これから国際的地位を高めていくアメリカとの協調と、対中関係の改善を柱に、外交政策の転換を考えていました。そして講和会議の焦点であるウィルソンの国際連盟構想にも共感を示していました。

 講和会議では、ウィルソンが18年1月の年頭教書で演説した「14か条の平和原則」が協議のベースになりました。これはソヴィエト政権の「平和に関する布告」に対抗した戦後構想で、和平交渉の主導権を握ることが目的でした。

ウィルソン大統領(The New York Public Library蔵)
ウィルソン大統領(The New York Public Library蔵)

 ウィルソンは17年1月、「勝利なき平和」といわれる調停案を提示するなど和平に力を入れてきており、実際、大戦末期に劣勢のドイツが、14か条に基づく和平交渉を希望する旨をウィルソンに伝え、これが戦争終結につながりました。(長沼秀世著『ウィルソン』)

 14か条は、公開外交、海洋の自由、関税障壁の撤廃、軍備縮小、植民地問題の公正な解決と続き、そのあと、欧州諸国の領土や国境問題、その中で「諸民族の国際的地位の保護」といった表現で、「民族自決」に言及していました。

 そして最後に「大国小国ともにひとしく、政治的独立および領土保全の相互的保障を与える」ための国際的組織の設立を訴え、これが「国際連盟」として結実します。

サイレント・パートナー

 平和条約案の起草は、「五大国」の代表各2人からなる10人会議でスタートしました。間もなく機密保持を理由に、米英仏伊の4首脳による会議となり、後にイタリア首相が領土問題の要求が受け入れられないのを怒って帰国してからは、事実上、米英仏の3巨頭が会議を仕切ることになりました。ウィルソン提唱の「国際連盟」については、規約を作る委員会が別に設置され、そこで論じられました。

日本の全権団。前列左から牧野伸顕、西園寺公望、珍田捨巳、後列左から伊集院彦吉、松井慶四郎(アメリカ議会図書館蔵)
日本の全権団。前列左から牧野伸顕、西園寺公望、珍田捨巳、後列左から伊集院彦吉、松井慶四郎(アメリカ議会図書館蔵)

 講和会議では、アメリカが14か条に強くこだわる一方、フランスは自国の安全保障を重視し、イギリスは戦前の地位回帰を図ろうとします。とくに仏・英両国は、領土や賠償金をめぐってドイツに厳しくあたりました。連日のように論争が繰り返され、交渉は難航し、会議は長期化しました。

 日本は、元老の西園寺を全権団のトップに、牧野伸顕・元外相と 珍田(ちんだ)捨巳(すてみ) ・駐英、松井慶四郎・駐仏、伊集院彦吉・駐伊各大使が全権と決まり、総勢100人を超える随員が派遣されました。その中には、松岡洋右、吉田茂、重光 (まもる) ら昭和に入って活躍する外交官・政治家の姿もありました。

 しかし、日本は「五大国」でありながら、ほとんど発言をしませんでした。日本と直接の利害がない問題は注意深く対応し、必要な時にだけものを言うことにしたためですが、世界を相手の外交のひのき舞台で沈黙を続ける日本は、「サイレント・パートナー」と 揶揄(やゆ) されることになりました。

残り:5452文字/全文:7436文字
読者会員限定記事です
新規登録ですぐ読む(読売新聞ご購読の方)
スクラップは会員限定です

使い方
3026503 0 「世界と日本」史 2022/05/25 05:20:00 2022/05/25 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/05/20220518-OYT8I50030-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)