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自己改革なきニッポン…『転落の歴史に何を見るか』の著者・齋藤健氏に聞く

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 2021年が新型コロナの感染が拡大し、緊急事態宣言の再発令から始まった。今年もコロナとの戦いが最大の懸案になることは間違いない。ワクチンの普及から経済の回復、デジタル化やテレワーク、新たな生活様式(ニューノーマル)への「行動変容」に至るまで、戦いの内容は多岐にわたる。コロナ禍は、これまで先送りしてきた変革を求めている、ともいえる。

 元通産官僚で衆議院議員の齋藤健さんは、日露戦争の勝利から第2次世界大戦に惨敗するまでの旧日本軍の変容について克明に調べ、『転落の歴史に何を見るか』という本にまとめている。なぜ日本は転落し、どんな教訓を残したのか。近代から始まった話は、予想外にも聖徳太子までさかのぼった。 

(聞き手・構成 調査研究本部 丸山淳一)

日露戦争とノモンハン事件…34年の間に何があったのか

インタビューに答える齋藤健氏(12月16日撮影)
インタビューに答える齋藤健氏(12月16日撮影)

 ――そもそも、なぜ現役の行政官時代に近代軍事史の本を書いたのですか。

 通産省の課長補佐だった時に読んだ『失敗の本質』(中公文庫)という本に衝撃を受けたのがきっかけです。経営学者が組織論の観点から第2次世界大戦中の陸海軍の意思決定を分析した本なのですが、「旧帝国陸海軍」という言葉を自分が勤めていた役所に置き換えたら、今も変わっていない、と感じたんです。

 日露戦争では、日本の陸軍が奉天会戦で、当時最強といわれたロシア陸軍に勝ち、海軍は日本海海戦でバルチック艦隊を撃破し、世界最強の軍隊組織であることを証明しました。ところが昭和14年(1939年)のノモンハン事件(※)と、同じ年に始まった第2次世界大戦では陸海軍とも無残な姿をさらしてしまう。内実を詳しく見ると、まるで別組織。日露戦争が終結した明治38年(1905年)からたった34年で、なぜこんなにダメになったのか。この疑問を解決しない限り、また同じことを繰り返しかねないという強い危惧を持ちました。

ノモンハン事件で大草原を進軍する旧満州軍(『ノモンハン事件全貌記』国立国会図書館蔵)
ノモンハン事件で大草原を進軍する旧満州軍(『ノモンハン事件全貌記』国立国会図書館蔵)

 ※ノモンハン事件 1939年5月~9月、満州国とモンゴルの国境ノモンハンをめぐって日本とソ連の間に起きた紛争。満州国軍とモンゴル人民軍の衝突が、それぞれの後ろ盾だった日本軍とソ連軍の大規模な衝突に発展したが、物量に勝るソ連軍が日本軍を撃破した。

 その要因に着目して調べていくと、日本が34年の間に失ったもの、変わったことがあることに気付きました。〈1〉指導者層が変わった、〈2〉組織が自己改革力を発揮できなかった、〈3〉日本的な精神、道徳律が変わった、〈4〉戦争の歴史をきちんと残さなかった――の4点です。

ゼネラリストとスペシャリスト、最良の組み合わせ消滅

 ――指導者が変わったというのは、「明治の元勲」が消えたということですか。

 日露戦争からノモンハン事件までの間は、明治を作った指導者が死に絶え、近代軍事教育を身につけた中堅幕僚、青年将校が台頭してくる時代でした。ひとことでいえば、ゼネラリストの指導者が消え、スペシャリストが台頭したということです。

 日露戦争までの軍の指導者は、武士の生き残りでした。武士というのは、単なる軍人ではありません。外交、財政、農業振興、産業改革も手掛けるわけですから。加えて、彼らの受けた教育は、福沢諭吉(1835~1901)の『福翁自伝』にもあるように、「論語」「孟子」「史記」などの中国の哲学書や治乱興亡の歴史書で、それを暗記するまでたたき込まれる中で、指導者とはどうあるべきかを学んでいったのです。しかも、戊辰戦争、西南戦争、日清戦争と、戦いが続く中で、際どい経験も数多く積んでいました。

秋山好古
秋山好古

 一方で、明治も中期になると、近代軍事教育を受けた軍事技術のスペシャリストが育ってきます。秋山好古(よしふる)(1859~1930)、真之(さねゆき)(1868~1918)の兄弟(※)がその代表です。日露戦争の時の日本というのは、武士の末裔(まつえい)のゼネラリストが戦争の指揮をとり、近代軍事教育を受けたスペシャリストがその参謀を務めるという、世代としてのベストコンビネーションが実現していたわけです。

 ※秋山兄弟 兄の好古は日本騎兵の父と呼ばれ、フランス留学の経験を生かしてナポレオンを破ったロシア騎兵隊を苦しめた。弟の真之は連合艦隊の作戦参謀として日本海海戦でロシアのバルチック艦隊を撃破した。兄弟の生家は下級武士だったが、家は貧しく、武家の教育は十分に受けていない。

日本海海戦に臨む連合艦隊司令長官の東郷平八郎(中央)。右隣が秋山真之(東城鉦太郎『三笠艦橋之圖』)
日本海海戦に臨む連合艦隊司令長官の東郷平八郎(中央)。右隣が秋山真之(東城鉦太郎『三笠艦橋之圖』)

 当時の戦争指導者は、開戦直後から戦争のグランドデザインを描いていました。アメリカ大統領のセオドア・ルーズベルト(1858~1919)と面識があった金子堅太郎(1853~1942)を渡米させ、事前に講和仲介の段取りまで付けていたのです。満州軍総参謀長として旅順攻略戦を指揮した児玉源太郎(※)(1852~1906)は、東京の軍務官僚が勝利に浮かれて事前の段取り通りに動かないと知るや、わざわざ前線から帰国して「火をつけたのに消さないのは馬鹿(ばか)のすることだ」と和平交渉を促しています。

日露戦争を指揮した元帥。将軍。右から2人目が児玉源太郎(奉天の満州軍総司令部で。国立国会図書館蔵)
日露戦争を指揮した元帥。将軍。右から2人目が児玉源太郎(奉天の満州軍総司令部で。国立国会図書館蔵)

 ※児玉源太郎 戊辰戦争に参加した後に陸軍に入り、佐賀の乱や西南戦争にも従軍。陸軍次官を経て台湾総督、陸相や内相なども務めた。日露戦争では満洲軍総参謀長として活躍。徳山藩の中級武士の嫡男に生まれ、幼いころから漢学などを学んでいた。

 ――児玉はこれ以上戦ったらダメだ、という潮時も知っていて、グランドデザイン通りに動いたわけですね。

 しかし、日露戦争以降は、山県有朋(1838~1922)や伊藤博文(1841~1909)などの明治の元勲がいなくなり、近代軍事教育を受けた軍事のスペシャリストが歴史の舞台に躍り出てきます。そして、日本は彼らに引きずられて、無謀な戦いへと突入していくのです。

真珠湾攻撃、変化を見抜いた米国と見抜けなかった日本

真珠湾攻撃で沈没する米戦艦アリゾナ(米海軍歴史センター所蔵)
真珠湾攻撃で沈没する米戦艦アリゾナ(米海軍歴史センター所蔵)

 ――組織の自己改革が進まなかったというのは?

 私が最も気になるのは、戦艦大和(やまと)のことです。日本の真珠湾攻撃によって対米戦争の幕が開きますが、実は、真珠湾攻撃というのは、海戦史上の画期的な出来事でした。それまでの海の戦いは、日露戦争での日本海海戦のように、大砲で決着をつけて制海権を握るという「大艦巨砲主義」が貫かれていました。大砲ではなく航空機で船を沈めるということを初めて実践したのが、真珠湾攻撃の日本だったのです。つまり、日本は海の戦いの歴史を変えたのです。

 問題はここからで、アメリカは「海の戦いの歴史は変わった」と明確に認識して、その後の海の戦いを空母主体の機動部隊によるものへと変え、ものの見事に構造改革を成し遂げます。ところが、歴史を変えた張本人である日本の方が、大和という大艦巨砲に頼り続け、十分な構造改革ができなかった。それはなぜなのか。この点にこそ、日本の組織の弱点があるように思えてならないのです。

山本五十六連合艦隊司令長官(国立国会図書館蔵)
山本五十六連合艦隊司令長官(国立国会図書館蔵)

 軍にも、「このままではダメだ」という危機感はあったはずです。でも、組織は日々、問題なく動いている。問題点を突き詰めて戦略を立て直そうとすれば、組織の変革が必要になり、内部に摩擦や対立が生まれる。とりあえず日常が回っていれば、前例通りでいいではないか――。評論家の山本七平(1921~91)は、自らの従軍経験をもとに、独創性を軽視し、自己改革を避ける日本陸軍の風潮を「日常の自転」という言葉で表現しています。無目標で機械的な「日常の自転」が組織を思考停止に導き、反省や学習をしなくなってしまったと。

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1765006 0 今につながる日本史 2021/01/13 10:00:00 2021/01/13 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210111-OYT8I50009-T.jpg?type=thumbnail

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