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北斎も広重も愛した藍…ジャパンブルーの意外な歴史

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調査研究本部 丸山淳一

深みのある青が魅力の藍染め
深みのある青が魅力の藍染め

 放送中のNHK大河ドラマ『青天を衝け』のタイトルは、主人公の渋沢栄一(1840~1931)が「青」と縁があるからだろう。渋沢の雅号「青淵」は、藍玉を製造・販売する実家の近くに淵があったことにちなむ。青淵は「深い青」とも読めるから、藍染めの濃い青色にも通じる。

ロバート・W・アトキンソン(国立国会図書館蔵)
ロバート・W・アトキンソン(国立国会図書館蔵)

 渋沢が活躍した幕末から明治初期にかけて、日本には回青色があふれていたという。日本政府に招かれて明治の初めに来日した英国の化学者、ロバート・W・アトキンソン(1850~1929)は、「日本においては藍を染料となし、これを使用するの量極めて大なり。…全国到るところ、青色衣装の (あら) ざるなき」と語り、あちこちで目にする濃い青を「ジャパンブルー」と名付けている。

 日本の青といえば、サッカー日本代表のユニホームの色「サムライブルー」が思い浮かぶ人も多いだろう。実は国旗の色にはない青色が、日本代表のユニホームに採用されたいきさつには、渋沢ゆかりの藍色がかかわっている。

手間のかかる藍、武士は好んで武具の色に

 『青天を衝け』のなかでも紹介されたが、藍を美しく染めるには大変な手間がかかった。藍玉を (かめ) に入れて加熱し、温度を管理したうえで、濃く染め上げるには染めては乾かす工程を30回は繰り返す。うまく染まれば、元の藍玉の色を上回る鮮やかで深い青色が出る。

 紀元前の中国の思想家・ 荀子(じゅんし) は、この工程を「青は藍より出でて藍より青く」と表現し、これが「弟子が師を越える」という意味に転じて「出藍の誉れ」という言葉が生まれるのだが、誉れを得るのは簡単ではない。染料を染み込ませるため、布を臼で丹念に () つ(つく)こともあったようだ。黒味がかった暗い青や茶を「 褐色(かっしょく) 」と呼ぶのは、この工程「搗つ」が転じたのが由来だとする説がある。「 褐色(かついろ) 」は「勝ち色」に通じ、しかも美しい藍色は師を超えて出世する色、というわけで、武士は好んで 鎧兜(よろいかぶと)直垂(ひたたれ) などを藍色に染めた。

江戸で大流行、サッカー日本代表のユニホームにも

 町人は当初は藍色を好まなかったが、使わされるうちに好むようになった。江戸幕府はたびたび 奢侈(しゃし) 禁止令を出し、町人が赤や黄の派手な着物を着ることを禁じたため、規制対象外の藍色を使わざるを得なかったのだ。だが、やがて町人たちは、使い込むと味わいが出る地味な藍色を「粋」な色と考え、藍色の着物や風呂敷を使い、店の 暖簾(のれん) も藍色にするようになる。

葛飾北斎『冨嶽三十六景 江都駿河町三井見世略図』(シカゴ美術館蔵)
葛飾北斎『冨嶽三十六景 江都駿河町三井見世略図』(シカゴ美術館蔵)
歌川広重『名所江戸百景 神田紺屋町』(メトロポリタン美術館蔵)
歌川広重『名所江戸百景 神田紺屋町』(メトロポリタン美術館蔵)

 江戸には「青屋」や「紺屋」と呼ばれる染め物屋が数多く誕生し、藍色は江戸で大流行した。流行浮世絵師だった葛飾北斎(1760~1849)と歌川広重(1797~1858)は敏感に流行色を取り入れ、ともに江戸の呉服店や染め物屋街を藍色中心に描いている。流行色を知るために、日ごろからウィンドーショッピングを欠かさなかったのだろう。流行浮世絵師が描く藍の絵が流行をさらに後押しし、幕末の江戸は藍色の町になっていく。

 藍染め木綿の着物は、農村部でも“標準着”だった。丈夫で汚れが目立たず、発するにおいに防虫効果があって、農作業の作業着に最適だったためだ。身分や地域を選ばずに広がった藍色は、まさにジャパンブルーだったのだ。

 ちなみにサッカー日本代表の青のユニホームは、日本がオリンピックのサッカー競技に初参加した昭和11年(1936年)ベルリン大会で採用された。江戸時代に武士(侍)が好んだ「勝ち色」にあやかったという説がある。効果はたちまち表れ、日本代表は優勝候補の一角とされたスウェーデン代表に勝つ「ベルリンの奇跡」を起こす。大番狂わせを呼んだユニホームの藍色は「サムライブルー」とも呼ばれ、それ以降、日本代表のユニホームは濃い青に定まった。

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2126413 0 今につながる日本史 2021/06/16 10:00:00 2021/06/16 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210614-OYT8I50079-T.jpg?type=thumbnail

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