参院選いよいよ最終盤…「不要論」まで出た第二院は、こうして生き残った

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編集委員 丸山淳一

 参議院議員選挙は7月10日の投開票に向け、与野党の舌戦が終盤戦を迎えている。ロシアによるウクライナ侵略、エネルギーや食料価格の高騰などが争点とされるが、参議院はどうあるべきか、という主張はあまり聞こえてこない。「衆議院のカーボンコピー」とやゆされ、以前から存在意義を問う声や不要論まで出ているのに、参院各会派でつくる参院改革協議会は6月、改革を選挙後に先送りしている。貴族院に代わって戦後に設けられた参議院は、なぜ必要とされたのか。そもそも、なぜ「参議院」なのか。

新憲法の火種に

参院改革協議会に臨む議員ら(2021年12月、国会で)
参院改革協議会に臨む議員ら(2021年12月、国会で)

 この問いに対する答えは、よく「衆議」「参議」の言葉の意味から説明される。「大勢の人(衆)が集まって議論する」衆議に対し、参議は文字通り「議論に参加する」こと。大衆の代表が議論する衆議院とは異なる目線で議論に参加し、衆議院の行き過ぎや見落としをチェックするから参議院。国民に代わって議論する「代議士」が衆議院議員だけの別名なのも、参議院が「良識の府」と呼ばれるのも、このためだ――。

 付け加えれば、朝廷の役職「参議」も、議論に参加するための役職だった。ポスト不足で朝廷の会議に参加する資格がなかった有力豪族を議論に加わらせるため、律令制にない役職( 令外官(りょうげのかん) )として奈良時代に設けられた。明治新政府の「参議」も、薩長土肥の実力者を野に置かず、新政府の政策論議に参加させる役職として使われている。

楊齋延一「帝国議会議事堂之図」(国立国会図書館蔵)
楊齋延一「帝国議会議事堂之図」(国立国会図書館蔵)

 「大所高所から国政に物申す有識者や実力者」という参議のイメージは、参議院という名前にも影響していたのではないか。新憲法制定に携わった日本の法学者らは、参議院議員は貴族院議員と同様に、天皇から任命された有識者や高額納税者、地方・業界代表などの有識者や実力者で構成されるべきだと考えた。しかし、終戦後に日本の民主化を進めたGHQ(連合国軍総司令部)は、選挙権を拡大したうえで、国会議員は幅広い国民による民主的な選挙によって選ばれるべきだと考えた。この考え方の違いは、大日本帝国憲法の改正作業のなかで次第に表面化し、新憲法の火種のひとつとなっていく。

選ばれた理由は「無難だから」

松本烝治
松本烝治

 日本政府の憲法改正作業のなかで初めて「参議院」の名前があがったのは、昭和20年(1945年)12月のことだった。幣原喜重郎(1872~1951)首相は法学者の 松本(まつもと)烝治(じょうじ) (1877~1954)を憲法担当相に起用し、憲法問題調査委員会(松本委員会)の委員長となった松本は、委員の憲法学者らに改正試案を募った。委員は試案のなかで「公議院」「元老院」「審議院」など、実にさまざまな名前を提案した。「参議院」はそのうちのひとつで、東北大学教授の清宮四郎(1898~1989)の試案に登場するのだが、実は、清宮案が提出される10日前に、元司法相で法学者の 小原(おはら)(なおし) (1877~1967)が貴族院本会議で、「参議院」の名前を出している。

松本がGHQに提出した憲法改正要綱。貴族院を参議院に改めるとある(国立国会図書館蔵)
松本がGHQに提出した憲法改正要綱。貴族院を参議院に改めるとある(国立国会図書館蔵)

 松本は清宮案が出たわずか2日後に、「参議院あたりが無難と言うべきか」(第7回調査会議事録)という理由で、「参議院」を採用している。松本は正月を返上し、翌年1月4日、「議会は衆議院と参議院からなる二院制とし、参議院は選挙または勅任(天皇の任命)により地域代表、職能代表、有識者で構成される」とする委員長案をまとめている。

 議院の名前で時間を空費しないよう、3人の学者が事前に示し合わせていたのかもしれない。その理由をうかがわせる記録が、松本委員会の議事録にある。12月の委員の試案にはなかった「特議院」という名前に、多くの委員が「それだけはダメだ」と反対しているのだ。

昭和36年に首相官邸内閣参事官室の金庫から発見された近衛の改正要綱(国立公文書館蔵)
昭和36年に首相官邸内閣参事官室の金庫から発見された近衛の改正要綱(国立公文書館蔵)

 「特議院」は松本委員会に参加していない元首相、近衛文麿(1891~1945)が提案していた。近衛は昭和天皇(1901~89)の意向を受け、天皇を補佐する内大臣府の 御用掛(ごようがかり) として独自に憲法改正作業を進め、すでに11月に改正要綱を昭和天皇に奉答(報告)していた。そのなかに「貴族院の名を改め特議院(仮称)とし、その議員は衆議院と異なる選挙その他の方法によって選任する」という一条があった。

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3145038 0 今につながる日本史 2022/07/06 15:00:00 2022/07/08 11:44:21 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/07/20220704-OYT8I50014-T.jpg?type=thumbnail

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