完了しました
・森田拳次『丸出だめ夫』(講談社など、電子版はebookjapanで配信中)

だめな男の子に寄り添い、いつも味方になってくれる、家族みたいなロボット――と言えば、誰もが『ドラえもん』を思い出すだろう。しかし、あの国民的ネコ型ロボット以前にも、マンガの世界に、そんなロボットがいたことをご存じだろうか。
それが本作『丸出だめ夫』に登場する「ボロット」である。今回はちょっと「名作を訪ねて」風にいかせてもらいます。
『おそ松くん』と人気を二分
森田拳次さんの『丸出だめ夫』は、「週刊少年マガジン」(講談社)で、1964~67年に連載された大ヒットギャグマンガだ。66年にテレビドラマになったので、そちらで覚えている人も多いかもしれない。
講談社KCコミックスで出た全12巻は、古書でも極めてレアになっている。ここに掲げた書影は、やっと手に入れたアース出版局版(1992年)のもの。長い間、まとめて読むのが難しかったが、近年、ebookjapanで電子書籍化され、手軽に読めるようになったのがうれしい。
赤塚不二夫さんの『おそ松くん』(1962~69年)と人気を二分したことでも知られる。こちらは「週刊少年サンデー」(小学館)の看板作品だった。このライバル関係に注目したテレビ局が「まんが海賊クイズ」というチーム対抗クイズ番組まで作ったほどだ。司会は黒柳徹子さん。森田さんが「だめ夫チーム」、赤塚さんが「おそ松チーム」を率いてレギュラー出演した。マンガ家がお茶の間タレント化する走りだったかもしれない。
現在も新作アニメが作られ続ける『おそ松くん』(いや『おそ松
「涙の家出」で人気を不動に

小学4年生のだめ夫は、天才発明家・丸出はげ
カンヅメ頭のロボット、ボロットの初登場は連載第12回。だめ夫の「弟」として父が作った。<弟のロボットが にいさんのだめ夫より 頭がいいとこまるだろ>という親心(?)で、最初は頭の悪いポンコツだったが、だめ夫がすしのワサビを食べさせると、ショックで天才に変身。以後、だめ夫の良き相棒となる。ボロットには音声機能がなく、セリフが全部「手書きボード」というのもチャーミングだった。
だめ夫の母は早世している。家事全般を引き受けるボロットは、だめ夫の弟というより、一家を支える主婦の役回りに近い。ボロットは、だめ夫の母の写真を見て、けなげに女装さえする。
第3巻に、ボロットが初めて家出する話がある。その最大の原因は、金持ちの依頼で新しいロボットを開発するため、父とだめ夫がボロットの欠点を数え上げたことだ。
<しゃべらない スマートじゃない 家の用ばかりしてあそんでくれない>(だめ夫)
<わしにこづかいをくれない それに いっしょにごはんをたべられないし……>(父)
ちょっとあんまりである。昭和の主婦の苦労がしのばれる。ボロットは布団の中でしくしく泣き、書き置きをして家出する。さすがに丸出父子も反省して後を追うが、ボロットが醸し出した哀愁は、もはやギャグマンガの域を超えていた。
私も「マガジン」で読んだこの回はよく覚えている。おそらく反響も大きかっただろう。ボロットが名キャラクターになった瞬間だ。『だめ夫』人気のかなりの部分は、ボロット人気だったと言ってもいいはずだ。