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・手塚治虫『ばるぼら』(講談社、手塚治虫文庫全集など)

手塚眞監督の新作映画『ばるぼら』が全国公開中だ。原作は手塚治虫が1973~74年に「ビッグコミック」(小学館)に連載した青年向けマンガ。現在59歳の手塚監督が、父の作品を実写映画化するのは、意外だが、これが初めてだ(アニメでは『ブラック・ジャック』の監督を務めたことがある)。
この映画について、手塚監督にインタビューする機会があった(11月18日、読売新聞朝刊文化面)。一番聞きたかったのは、数ある手塚治虫作品の中で、なぜ『ばるぼら』を選んだのかということ。かなりの手塚ファンでも「どんな話だっけ?」と首をひねりそうな作品だからだ。
酔っ払いのフーテン娘は「芸術の女神」
小説家の美倉洋介が、新宿駅の雑踏で、酔っ払いのフーテン娘・バルボラを拾うところから物語は始まる。
不思議な力を持つバルボラは、美倉が異常な事件に巻き込まれるたびに彼を救う。バルボラの正体は永遠の時を生きる魔女で、芸術家に霊感を与えてきたミューズでもあった。ある事件をきっかけに、彼女は姿を消す。美倉はバルボラを探し求めるが……。
モヤモヤした結末、影の薄い異色作

「有名な作品とか、そういうことは一切なしに、自分が純粋にやりたいと思う作品はどれだろう、と選んだら『ばるぼら』だったんです」。手塚監督はそう語った。
「子どもの頃は単純に、幻想的なところが面白いと思っていたんですが、大人になって読み返すと、その幻想の中にいる人間たち、特に美倉の生きざまが非常に人間くさい。芸術を追いかけるのか、それとも仕事の成功を追い求めるのかという、リアルな葛藤にひかれたんです」
『ばるぼら』は、「ビッグコミック」で『
「父は、『ばるぼら』を割と楽しんで描いたんじゃないかという気がします」と手塚監督。「本人の気持ちが、ストレートに作品に反映しているんじゃないでしょうか」
『リボンの騎士』に影響を与えたオペラ映画


手塚は、<この物語をかこうとしたのは、オッフェンバッハのオペラ「ホフマン物語」からのインスピレーションです>とあとがきで書いている。<「ホフマン物語」は、ぼくにとって青春の感慨であり、人生訓なのです>
手塚が『ホフマン物語』を初めて見たのは、オペラの舞台ではなく、オペラ版をベースに、マイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガーが映画化したもの(1951年英映画、52年日本公開)と思われる。
『
この映画は、人気バレリーナのモイラ・シアラーが踊る豪華な大作だったが、実験的すぎたのか、興行的に失敗し、長らく「幻のフィルム」だったそうだ。現在では、ちゃんとレストアされたブルーレイ版が出ている。
私もこれまで見たことがなかった。手塚監督へのインタビューの後、一体どんなものなのかと鑑賞し、うーん、なるほど……とうならされた。
「自動人形オランピア」の首
オペラ版『ホフマン物語』の原作は、ドイツ・ロマン派の文豪として名高いE.T.A.ホフマン(1776~1822)の小説だ。ただし、『ホフマン物語』という名の本や小説はない。ホフマンの三つの短編『砂男』『クレスペル顧問官』『
この映画を見ると、手塚が『ばるぼら』でやりたかったことがよくわかる。