「鬼マンガ」50年史<上> 「人、悪鬼となる」のルーツは永井豪にあり
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吾峠呼世晴さんの『鬼滅の
白土三平と「今昔物語」
戦後マンガで鬼を描いた最初の作品は何か。……よくわからない。1963年に白土三平さんが『鬼』という題で、「今昔物語」に材を取った作品を描いている(『忍法秘話』所収)。さらに、黒川哲名義で『鬼』という時代劇を1959年に描いているのを見つけたが、あまり鬼とは関係なかった。丹念に探せばもっとあるだろう。
ただ、『鬼滅の刃』に至る道を考えると、出発点はこれだと思える作品はある。永井豪さんの『鬼 ―2889年の反乱―』だ。「週刊少年マガジン」1970年1月1日号に一挙100ページ掲載された、異色のSF読み切りである。
「おれは、鬼になったのだ」


29世紀、無機質から「人間」が作れるようになった未来。合成人間たちは目印のためにツノをつけられて「鬼」と呼ばれた。鬼には人権もなく奴隷同然だったが、鬼の青年バルマーは、グリアス中将の家で人間らしい暮らしを与えられていた。
日ごろ鬼差別に批判的だったグリアスだが、娘のリリアンがバルマーと恋仲になると、態度を
数年後、鬼たちが武器を取って一斉蜂起。
バルマーが舞い降りたのは日本の平安時代。<おれは いま いったい なにをしているんだろう>。
<おれは なんだ!? あの未来人とおなじことをしているんじゃないのか>
<ああ! 鬼だ 鬼だ 悪鬼だ! おれは ついに 鬼になったのだ>
1970年という時代が生んだ「鬼」
『ハレンチ学園』や『キッカイくん』などのギャグ作品で人気だった永井さんが、いきなり、どシリアスな「劇画」を描いたことに、私を含め、ファンは仰天した。
<暮れの一番忙しい最中に、この作品のおかげで過労でぶっ倒れたり、それこそボロボロになってかきあげたものでした>。1971年の単行本で永井さんはこう書いている。人間ではなく鬼の恨みに感情移入したストーリーは、神と悪魔の正邪を逆転させた『魔王ダンテ』(71年)に発展し、同作のアニメ化企画が発端の『デビルマン』(72年)へとつながっていく。

ジョージ秋山さんの『アシュラ』も1970年の「マガジン」だった。鬼そのものは出ないが、生きるために人を殺す〝餓鬼〟の主人公アシュラは、バルマーと重なって見える。両作の救いのない世界観の背後には、68年がピークだった学生運動や、ベトナム反戦運動の影響もあっただろう。「人類の進歩と調和」をうたった日本万国博覧会が大阪で開かれ、空や海で公害が深刻化し、三島由紀夫が自決した年。そんな時代の変わり目に生まれたのが「人が鬼になるマンガ」だった。