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衆院選の結果が左右する遠心力
大派閥や伝統派閥には、遠心力が働きやすい。
今の自民党の7派の中で、その懸念がある規模と伝統を誇るのは、細田派だけだ。
しかも、12年総裁選ではっきりと見えたミシン目に加え、2本目の新たなミシン目もできている。
安倍政権の復活から退陣までの8年近くの間に、総裁派閥に加入するのが自分の選挙にも有利と考えた、選挙の弱い若手議員の作ったミシン目だ。
「魔の3回生」と呼ばれる12年衆院選の初当選組は、21年衆院選の公示前の時点で党内に80人以上も残っていて、そのうち20人以上が細田派に在籍している。
「福田系VS安倍系」のしがらみこそ経験していないが、衆院選が目前に迫る中で菅前首相が退陣に追い込まれる逆風を前に、派閥に対する忠誠心よりも「人気のあるリーダー」を求める焦りが勝った。このため、先の総裁選では、「高市氏を支持する」という安倍氏の呼びかけも、若手には浸透しにくかった。
ミシン目に外から力が加わると、そこから裂ける。細田派の2本のミシン目は、自民党の最大派閥を二分裂、三分裂させることにもつながる境界線だ。
岸田氏の「福田系」重用は、ミシン目に外から働く力となった。それを意識的に行って最大派閥の力を減じようと考えたとすれば、岸田氏もなかなか、したたかだ。徐々に「岸田カラー」を発揮していくための布石を打ったのかもしれない。
ただ、細田派の消長は、10月31日投開票の第49回衆院選で、どれだけ若手が生き残るかによっても変わってくる。
首相が菅氏から岸田氏に交代した後、自民党の政党支持率は上昇傾向にある。ほとんどの若手が再選を果たせば、細田派は大きいまま推移する。
規模の大きさゆえの遠心力を求心力に転換するには、将来の総裁候補を早く固めることが早道だ。もっとも過去には、最高権力者の座を降りながらキングメーカーとして君臨し続け、後継者を育てたり、伸ばしたりすることを嫌う派閥トップもいて、分裂劇を招いた事例もある。安倍氏がこの道をたどらないとも、限らない。
逆に、衆院選で新政権に対する「ご祝儀」が期待ほどには増えず、野党共闘の方が効果をあげるようだと、もともと選挙が弱かった若手の再選は難しくなる。その場合、若手を多数抱えている細田派への打撃は大きくなる。
発足時の岸田内閣の支持率が5割前後にとどまる「人気不足」を考えると、こちらの展開になることも十分にあり得る。
その場合、規模が小さくなることで遠心力が弱まることもあるだろう。むしろ、長い目でみると、その方が細田派の結束力を高めるかもしれない。
その意味では、第49回衆院選の結果は自民党の派閥像を変え、党内力学に変化をもたらす可能性がある。

岸田政権の誕生に、安倍氏が大きな役割を果たしたことは間違いない。岸田氏と安倍氏が友情で結ばれているとしても、打算も働く。
安倍氏が逆襲に出れば、岸田政権の基盤は不安定になる。
岸田氏が安倍氏への配慮や遠慮で自分のカラーを出せなければ、政権に対する漠然とした期待はすぐ、失望に変わりかねない。
有権者とは直接関係のない自民党というコップの中の駆け引きに思えても、政権の安定は政策の推進力にもかかわってくる。
当分、岸田、安倍両氏の関係から、目が離せない。