「死生学」を日本に広めたスーツ姿の神父、逝く
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キリスト教の教えや神の言葉を伝えるカトリックの「神父」。私がその存在を強烈に印象づけられたのは、1973年に公開された映画「エクソシスト」でした。
悪魔にとりつかれた少女に2人の神父が「悪魔払い」を行う映画で、当時、全国的なオカルトブームを巻き起こしました。私は小学校6年生の時、級友たち数人と一緒に見に行き、震え上がった記憶があります。私と同世代の人たちの多くが、似たような体験をしたのではないでしょうか。

単なるホラー映画ではありません。監督は、「フレンチ・コネクション」をヒットさせたウィリアム・フリードキン。病気を疑われた少女が医学的な検査を受ける場面は物語にリアリティーを与え、若いカラス神父の「実母を独りで死なせてしまった罪の意識と神への不信」は悪魔払いの場面で生きてきます。アカデミー賞の脚色賞と音響賞も受賞しており、いま見ても十分おもしろい映画です。
悪魔払いを行ったカラス神父と年老いたメリン神父は、立て襟の真ん中に白いプラスチックがのぞくローマンカラーの服を着ています。メリン神父は、顔に深いしわが刻まれ、言葉少なで威厳のある雰囲気。カラス神父は悩みを抱え、時々ボクシングで汗を流しているせいか、やせて頬がこけて、とても神経質そうに見えました。
神父と言えば、「エクソシスト」の怖いイメージだったが……
さて、大人になった私はその後、プロテスタントの牧師さんには何人かお会いしましたが、カトリックの神父さんにお目にかかった記憶はありません。だから私の神父像は、あの映画の2人のイメージのままでした。ところが、今年9月6日、88歳で亡くなったある神父は、そうした私のイメージとは全然違ったようです。ローマンカラーの服ではなく、おしゃれなスーツと派手なネクタイ姿。にこやかな笑顔に、ユーモア……。
そう、アルフォンス・デーケンさんです。イエズス会の神父で上智大学名誉教授。日本に「死生学」を広め、根付かせた方です。今月11日の夕刊記事「追悼抄」に、私はデーケン神父のことを書きました。

「死生学」とは、死と関わりのあるテーマについて、哲学、医学、心理学、民俗学、文化人類学、宗教、芸術など、あらゆる分野から学際的に取り組む学問です。人間が誰一人として避けられない死を見つめることで、生き方を問い直す学問、とも言えます。
医学の進歩に伴い、医療は病気を治すことが最優先され、死は「医療の敗北」と位置づけられてきました。それに伴い、死を語ることは次第にタブー視されるようになります。1970年代から80年代にかけ、在宅死ではなく病院での死が増え、家族にとって死というものが身近でなくなったことも、死をタブー視する風潮に拍車をかけました。そんな中で、デーケンさんは死生学を日本に広めようと努力したのです。
私は、2003年に出版されたデーケンさんの著書「よく生き よく笑い よき死と出会う」(新潮社)は読んでいましたが、残念ながらお目にかかって取材したことがありませんでした。そこで、デーケンさんのことをよく知る方をいろいろなツテを当たって探したところ、10年以上もデーケンさんの秘書を務めた「木村敦子さん」の存在を知り、詳しくお話をうかがうことができたのです。