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私が前立腺がん体験記を書いたわけ

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編集委員 山口博弥

会社の健康保険組合から届いた検査結果表。「専門医(泌尿器科)を受診されますようお勧めします」と書いてあった
会社の健康保険組合から届いた検査結果表。「専門医(泌尿器科)を受診されますようお勧めします」と書いてあった

 読売新聞朝刊くらし家庭面の「医療ルネサンス」で昨日21日から、「前立腺がん 記者の選択」という連載を始めました。25日まで5回の掲載です。

 記事に書いた通り、私は前立腺がんになりました。今年7月に会社の健康診断で受けたPSA(前立腺特異抗原)検査に引っかかり、8月下旬、東京都内のクリニックの泌尿器科医を受診。複数の検査を受け、9月上旬にがんの確定診断を受けたのです。

 連載はあと3回続くので、私が治療法を選択するまでの経緯は、ぜひ明日からの記事を引き続きご覧ください。

 さて今回は、私がなぜ自分の体験を記事で紹介しようと思ったのかを書きます。

知識はあったはず。でも、あまりに知らないことが多かった

 新聞記者が自分のがん体験を記事にするのは、今ではそれほど珍しいことではありません。本紙でも他紙でも、時々そうした記事を目にします。今は日本人の2人に1人ががんを経験するのですから、当然、新聞記者もがんになります。

 ただ、情報が少ない昔なら、記者が体験を紙面に書くことで、がんという病気の特徴や治療法などを広く読者に伝える意義はあったでしょう。でも今は、がん情報は(ちまた)にあふれています。国立がん研究センターのがん情報サービスのホームページを開けば、がんの種類ごとに詳しく解説してあるし、SNSではがん患者が自ら体験を詳しく公表しています。

 そんな今の時代に、あえて記者が自分のがん体験を書く必要はあるのか。しかも私のがんは、他のがんに比べて進行が遅く、すぐには死なない前立腺がんです。「読み物」としても、今ひとつパンチ力に欠けるのではないか。そう自問自答したりもしました。

 それでも、「書くべきだ」と思ったのです。私は前立腺がんを取材したことはありませんが、医療ルネサンスでは過去に何度もこの病気を取り上げており、掲載時にすべて読んでいました。だから、最低限の知識はあったはずです。にもかかわらず、自分がこの病気になってみると、あまりに知らないことが多かった。

 今日の朝刊で書いた「男性型脱毛症治療薬がPSAの数値を下げてしまう」話もその一つ。自分の恥をさらすような話なので、書くことにためらいはありました。

 でも、こうした体験や、わが国の前立腺がん医療の特異性など、自分が「え? そうだったの?」と驚いたことは、たとえプライベートな内容であっても記事に書かないわけにはいかない──。そう思ったのは、私が1997年秋に医療情報室(現・医療部)に来て20年近くの間、「医療ルネサンス」で記事を書いてきたせいかもしれません。

「同じ病気の方に少しでも役に立てれば」、今度は私が恩返しを

 医療ルネサンスでは通常、一つの病気をテーマに連載する場合、記者は、単に専門の医師から話を聞くだけで記事をまとめることはしません。原則、その病気の患者さんを取材して、体験を紹介することで、病気の症状や治療法などを読者に伝えます。つまり、読者は患者さんの病気のストーリーを身近に感じながら、自然に病気や治療法の実態を理解することになるのです。

 取材の手法はケース・バイ・ケースですが、専門の医師をじっくり取材したうえで、その医師から患者さんを紹介してもらうことが多い。後日、医師から打診を受けて取材を了承した患者さんは、記者とアポを取り、ご自宅や病院、喫茶店などで取材に応じてくれます。

 私の場合、最低1時間、時には5時間以上、話を聞かせてもらうこともありました。たとえば、がん患者さんなら、病気に気づいたきっかけ、告知を受けた時の驚き、症状の有無と苦しさ、治療へ向けた不安、治療の前後の気持ち、後遺症の有無とつらさ、今の心境……など、事実の経過とその時々の思いを詳細に聞きます。患者さんたちは、一銭にもならないのに、貴重な時間を割いて、見ず知らずの私に、個人情報を惜しげもなく開示してくれるのです。

 なぜ取材に応じたのかと聞くと、ほとんどの患者さんは「自分と同じ病気の方たちの役に少しでも立てれば、と思って」と言います。まさに「利他」の行為なのです(「話を聞いてもらったおかげで、気持ちが整理できました」と言ってくださる患者さんも少なくありませんでしたが)。

 こうした患者さんたちの協力で、たくさんの医療記事を書かせてもらってきた自分が、がんになってしまった。よし、今度は私がプライバシーを開示して「恩返し」をする番だ──。そんな感じで、体験記を書くことを決めたわけです。

 さきほど触れた「わが国の前立腺がん医療の特異性」については、連載の後半で取り上げます。ただ、紙幅の関係で少ししか書けなかったので、次回のこのコラムでもっと詳しく書くつもりです。

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1717771 0 なるほど!医療 2020/12/22 10:00:00 2020/12/22 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201218-OYT8I50048-T.jpg?type=thumbnail

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