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世界中に発信されてしまった東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(83)の失言問題。国内外で湧き起こった批判の大合唱を受け、先週の12日、とうとう辞任に追い込まれました。

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。女性っていうのは競争意識が強い」
弊紙の6日付社説を引用すると、「女性差別と受け取られても仕方がない不見識極まりない発言だ」。まったくその通りです。ただ、すでにあちこちで十分過ぎるほど批判されたので、ここでは、森氏が4日の記者会見で弁明した時の次の発言を取り上げます。
「数字にこだわって無理はしない方がいいと言いたかった」
いやはや、もう苦笑するしかありませんでした。「数字」というのは、スポーツ庁が、主な競技団体の理事会の女性比率を40%以上とする目標を掲げていることを指しますが、ここは数字にこだわらないといけないのです。
日本女性の地位は世界的に下位、「数字」目標が絶対必要
女性が歴史的に差別され続け、今も解消されていない中、「差別はやめましょう」という理念を掲げただけでは、一向に女性の地位は向上しない。だからこそ、1970年代後半以降、「クオータ制」が北欧などヨーロッパ各国で導入されました。クオータ制とは、議員や企業の管理職などの一定割合を女性に振り分ける制度。内閣府男女共同参画局の昨年3月の資料によると、196の国・地域のうち、お隣の韓国やアフリカ諸国も含めた118か国・地域で採用されています。クオータ制のない日本は、世界では少数派に属するのです。
同資料によると、日本の女性議員(衆議院)の割合は9.9%で、世界191か国中165位(2020年1月現在)。経済協力開発機構(OECD)諸国では最下位と、取り組みが非常に遅れています。それでも、企業に女性登用を促す「女性活躍推進法」や、女性議員を増やすための「政治分野における男女共同参画推進法」が施行されており、遅まきながら女性の活躍の場を増やそうと官民が動いているのです。スポーツ庁が理事会の女性比率40%以上の目標を掲げたのも、そうした流れの一環にほかなりません。
森氏も当然、そういう基本的な知識は(たぶん)あるのでしょうけど、あの記者会見を見ると、感覚的に受け入れられないのかもしれませんね。そんな人が世の中に存在するのは仕方ありません。しかし少なくとも、世界に注目されるオリンピックの組織の代表を務める人がそれでは困る。短期的に国益を損なってしまったのは間違いありませんが、日本人がこの問題を考えるきっかけを与えてくれたという意味では、役に立った面もあるとは言えるでしょう。
クオータ制については将来、各分野の組織の構成員について、女性に限らず、LGBTQ(性的マイノリティー)や在日外国人、障害者の「枠」なども設ける日が来るのかもしれません。
中国人でも米国人でもない…「人種差別の壁」に苦しむ

さて、先週10日(水)の弊紙夕刊「旅 特別編 映画のトラベラー」で、映画「燃えよドラゴン」と香港を取り上げました。
主演のブルース・リーは、1940年11月生まれ。父親は広東語オペラの役者で、母親は中国人とドイツ人の間に生まれました。だからブルースにはドイツと中国の血が流れている……。私は長い間、複数の書籍や映像を基にそう認識していましたが、一昨年に日本でも刊行された「ブルース・リー伝」(マシュー・ポリー著、亜紀書房)によると、母親にはドイツではなく、オランダ人とイギリス人の血が流れているとか。いずれにせよ、中国人とヨーロッパ人の間に生まれた「ユーラシアン」ということです。
そんなブルースは、香港では幼い頃から子役として映画に度々出演しつつ、ケンカとダンスとおしゃれが好きな快活な少年に育ちます。ケンカに勝つため、中国武術「詠春拳」を師匠のイップ・マンの道場で習いました。ある本によると、彼は純粋な中国人ではないことを理由に、奥義までは教えてもらえなかったそうです。