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想像しにくい他人のつらさ…「みえない多様性」認め合う社会に

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編集委員 山口博弥

 私の妻は、小学生のころからの頭痛持ちです。

 「トリプタン系」と呼ばれる片頭痛治療薬が日本でも使えるようになった2001年以降は、妻もこの薬を服用することで痛みが軽減しました。頭痛患者の中には、加齢とともに痛みが和らぐ人が少なからずいるので、そのせいもあるのかもしれません。

当事者にしか分からないつらさ(写真はイメージです)
当事者にしか分からないつらさ(写真はイメージです)

 しかし、治療薬が登場する以前は、妻はほぼ毎日、頭が締め付けられるように痛み(緊張型頭痛)、月に2~3日はズキンズキンと脈打つ痛み(片頭痛)に襲われていました。片頭痛がひどいと吐いてしまい、鎮痛薬を飲んでもまったく効きません。光や大きな音で痛みが悪化するので、静かな暗い部屋で寝て、痛みが去るのを待つしかないのです。

 ある夜、私が仕事から帰宅すると、台所の床に妻が倒れていました。一瞬、ふざけているのかと思いましたが、家事の途中で片頭痛発作に襲われ、その場で力尽きていたのでした。

 鎮痛薬を飲み過ぎると、かえって頭痛の頻度が増える「薬物乱用頭痛」になる場合があり、妻もそうなっていたようです。あまりの痛みに、涙を流して「死にたい」と言うことさえ何度かありました。

頭痛を取り上げた新聞連載に大きな反響

 頭痛は、かき氷を食べた時や酒を飲み過ぎた翌日など、誰もが経験するだけに、妻のようにひどい慢性頭痛が存在することを知らない人も多いでしょう。しかし、慢性頭痛はれっきとした病気。患者は全国に約3000万人いるとされ、このうち約840万人が片頭痛です。特に女性に多く、働き盛りの30代女性の5人に1人は片頭痛持ちとも言われています。

「頭痛」を取り上げた読売新聞の連載、医療ルネサンス「頭痛の治療」
「頭痛」を取り上げた読売新聞の連載、医療ルネサンス「頭痛の治療」

 私は1997年秋、頭痛に悩む方々と複数の専門医を取材しました。その結果が医療ルネサンス「頭痛の治療」(計10回)として本紙に掲載されると、読者から非常に大きな反響がありました。当時はまだインターネットやEメールも普及していなかったので、電話やファクス、手紙がたくさん職場に届いたのです。専門医がいる医療機関を知りたい、という問い合わせも多かったけど、自分がいかに頭痛でつらい思いをしてきたかを30分以上も電話口で話す方や、何枚もの便箋につらい体験をつづった方もいました。

 「私と同じように頭痛に苦しんでいる人がいるのを知って、ほっとしました。全国紙でよく書いてくれた、と感謝しています」

 「『なまけ病だ』と言って理解してくれないしゅうとめに、記事の切り抜きを見せたいと思います」

 手紙の多くは大体こんな内容でした。記事の切り抜きを見せたい相手として、「夫」や「職場の上司」「かかりつけ医」を挙げた方もいました。

 読者の声に共通するのは、頭痛の痛みによるつらさもさることながら、そのつらさを周りの人たちに理解してもらえない苦しさや悔しさです。慢性頭痛で命を落とすことはないし、レントゲンや血液検査では異常が見つかりません。周りの人たちは、まさかそんなにつらい症状があるとは知らず、「たかが頭痛ぐらいで」とつい軽く見てしまうのでしょう。

実態が伝わりにくい病気への理解、職場ぐるみで

 片頭痛への理解を促進し、働きやすい環境を整備しよう――。そんなアクションを起こした企業があります。製薬企業の日本イーライリリー(本社・神戸市)です。

 同社では2019年、有志の社員からなる部門横断組織「ヘンズツウ部」が発足。まず、片頭痛持ちの社員とそうでない社員らが経験を共有し、職場の課題などについて話し合いました。その後、専門医を招いて社内イベントを開いたり、片頭痛の情報を書いたポスターを社内に掲示したり、片頭痛にふさわしい表現を言語化する「ヘンズツウ大喜利」をオンライン上で実施したり。この大喜利では従業員による投票も行い、最多得票は「見えない爆弾」だったとか。

 ただ、職場で理解してもらいにくい病気は、何も頭痛だけではありません。過敏性腸症候群など内臓の疾患や、不安発作に突然襲われるパニック障害など、いろいろあります。そこで同社では、症状の実態があまり知られておらず、休暇やいたわりの対象になりにくい「みえない多様性」に優しい職場を作ろう、というプロジェクトを企画し、アシックス、パソナ、ネスレ日本、明治安田生命神戸支社などの企業と神戸市が参画しました。

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1946355 0 なるほど!医療 2021/03/30 10:00:00 2021/03/30 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210326-OYT8I50054-T.jpg?type=thumbnail

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