西郷輝彦さんの死で考える…前立腺がんと最新「PSMA標的治療」

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

編集委員 山口博弥

 歌手で俳優の西郷輝彦さんが、2月20日に亡くなりました。享年75。私と同じ鹿児島県生まれで、同じ前立腺がん患者だっただけに、突然の悲報はショックでした。昨年5月から8月まで、オーストラリアで受けた最新治療について動画投稿サイトのユーチューブで報告し、元気そうな姿を見せていたのに……。

代表曲「星のフラメンコ」、50歳代以上には懐かしい

西郷輝彦さん
西郷輝彦さん

 西郷さんの代表曲と言えば、何と言っても「星のフラメンコ」(1966年、作詞・作曲:浜口庫之助)ですね。「好きなん~だけど~ 離れてるのさ~」の出だしは、私(59歳)より上の世代にとってはあまりに有名です。いま、ユーチューブで改めてこの曲を聴くと、アコースティックギターやカスタネットなどでフラメンコっぽさを出しつつも、西郷さんの歌唱力を生かした日本の歌謡曲になっている。なかなかよくできた曲だなあ、と思いました。

 さて、西郷さんの悲報に接し、読者のみなさんに改めて伝えたい、と思ったことがあります。

  <1>前立腺がんを甘く見てはいけないということと、<2>西郷さんが受けた最新治療「PSMA標的治療」は将来、日本で受けられるのか、の二つです。

前立腺がんは再発や転移の繰り返しが少なくない

 まずは<1>から。私自身、前立腺がんと診断された2020年9月より前は、医療記者としてこのがんを次のように認識していました。

  ・進行が遅くて、がんの中では「良いがん」である。初期の段階なら、治療せずに定期的に検査を受けるだけの「監視療法」を選択することもある。

  ・別の病気で亡くなった高齢者を解剖すると、前立腺がんが見つかることが少なくない。進行が遅いので、がんで命を落とすより先に、ほかの病気や老衰で亡くなる、ということ。だから前立腺がんは、「天寿がん」とも呼ばれる。

 これらの情報は、決して間違いではありません。現に私の父も、10年以上前に前立腺がんが見つかり、一時的にホルモン療法を受けてそのまま放置し、結局、94歳だった一昨年夏、ほかの病気で亡くなったのです。

 昨年12月に国立がん研究センターが発表した10年生存率のデータ(2009年にがんと診断された患者約29万人の分析)を見ても、大腸がんが67.5%、肺がんが35.0%、乳がんが87.8%だったのに対し、前立腺がんは100%。こうしてみると、やはり前立腺がんは他のがんに比べて「良いがん」と言っていいのかもしれません。

 ただし、誤解してはいけないことが一つあります。胃がん、大腸がん、肺がんなどは、治療後に5年再発しなければ、ほぼ根治したと考えてもいい、とされます。しかし、前立腺がんや乳がんは違います。5年生きたから、いや、10年生きたから大丈夫、とは言えません。西郷輝彦さんは2011年に前立腺がんが見つかって前立腺の全摘手術を受け、6年後に再発(骨転移)、11年後に亡くなっています。

 前立腺がんは進行が遅く、すぐに命を落とすことはまずないけれど、最初の治療(手術や放射線治療)がうまくいかなければ、PSA再発(治療後に下がった血液中の腫瘍マーカーPSAの数値が再び上がること)を繰り返すことが少なくありません。追加の放射線治療やホルモン療法を行えば、PSAは下がる。しかし、薬の効果が薄れてPSAが再び高くなると、別の種類の薬に替える。PSAの数値が上がり続けると、やがて画像で確認できるリンパ節転移や骨転移、他臓器転移へと進んでしまう。ホルモン療法の薬が効かなくなると、最後には抗がん剤を投与し……と、患者は10年以上もの長きにわたり、がんの再発・転移と向き合い、不安と恐怖におびえることになります。

 平均寿命が短かったころなら「前立腺がんで亡くなる前に寿命が来る」と言えたかもしれませんが、今は人生100年時代、そうはいきません。だからこそ、最初にがんと診断された時にたくさんの情報を集め、複数の医師の意見を聞いた上で適切な治療法を選び、初回治療でがんを徹底的にやっつけることが何より大切なのです。決して、前立腺がんを甘く見てはいけません。

1

2

3

スクラップは会員限定です

使い方
2816614 0 なるほど!医療 2022/03/08 10:00:00 2022/04/21 17:16:42 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/03/20220304-OYT8I50034-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)