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食の巨匠2人の「ぞうきんがけ」時代

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政治部デスク 川上修

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、行われた情報セキュリティー会社の入社式。新入社員は間隔をあけて座り、テレビ会議システムで社長のあいさつに耳を傾けた(1日、東京都千代田区で)
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、行われた情報セキュリティー会社の入社式。新入社員は間隔をあけて座り、テレビ会議システムで社長のあいさつに耳を傾けた(1日、東京都千代田区で)

 4月と言えば、新社会人が第一歩を踏み出す時期である。今年は新型コロナウイルスのせいで入社式が中止や延期となり、どこか学生気分が抜けないまま働き始める人も多かろう。

 政界には、当選回数で就けるポストが決まる年功序列が今も残る。自民党の若手議員は、地道な地元回りや党務に汗をかく「ぞうきんがけ」が当たり前のことだった。もっとも、人物本位で選ばれる中選挙区制から、所属政党が物を言う小選挙区制に移ると、党の支持率にあぐらをかき、さしたる苦労もせずに当選を重ねる若手が増えた。

 一般社会でも、雑用などのぞうきんがけを嫌がる新人は多いそうだ。こつこつとキャリアを積み上げていく国内企業よりも、若いうちから地位や高収入を得やすい外資系企業を選ぶ傾向が強まりつつある。逆に、あくせく働くより、なるべく楽な部署を希望する若者も珍しくない。

 思えば、昭和時代は「下積みの苦労こそが大成への近道だ」という風潮が強かった。

帝国ホテル総料理長を務めた村上信夫さん(左)と「すきやばし次郎」主人の小野二郎さん
帝国ホテル総料理長を務めた村上信夫さん(左)と「すきやばし次郎」主人の小野二郎さん

 帝国ホテル総料理長を務めた村上信夫氏は駆け出しの皿洗いの頃、親方たちが作る料理の味を盗めず、途方に暮れた。洗い場の鍋には、味見できないよう塩や洗剤がまかれていたからだ。ある日、休み時間を使い、調理場の約200もの銅鍋をきれいにしようと思い立った。長年の汚れがこびりついた鍋を磨くという重労働を我慢して毎日続けるうちに、親方たちは村上氏にだけ、調理に使った鍋をそのまま回すようになった。むさぼるように指でなめ、本物の味を覚えたという。「帝国ホテル厨房(ちゅうぼう)物語」(日本経済新聞出版社)にそんなエピソードが紹介されている。

 一方、寿司(すし)の超一流店、東京・銀座で「すきやばし次郎」を営む小野二郎氏は修業時代、先輩に申し出て早朝の親方の仕入れに同伴し、魚の目利きを学んだと聞く。休み時間にも、ひとり黙々と仕事に没頭し、寿司のイロハを必死で我が身にたたき込んだとのことだ。

 働き方改革の令和時代に、両氏のように「休まず働け」というのは時代錯誤だろう。社員を休ませないのが当たり前のブラック企業は、ぞうきんがけをするどころか、人をぞうきん扱いするので論外である。運悪くそんな所で働く羽目になったら、さっさと見切りをつけるに越したことはない。ただ、両氏が新人のうちから「今すべきことは何か」を自ら考え、見いだした答えを実行に移したということは覚えておいてほしい。

 最後になぞかけを一つ。「ぞうきん」とかけて、「中年」ととく。その心は「廊下(老化)に磨きがかかります」。若い時の苦労は買ってでもしろ、という言葉もある。筆者のように心身ともにくたびれた中年になる前に、自分磨きは今のうちからやっておいた方がよろしいですぞ。

プロフィル
川上 修( かわかみ・おさむ
 政治部次長。1995年4月入社。盛岡支局を経て2001年10月から政治部で政治取材を担当。首相官邸や外務省、総務省、自民党などの取材を手がけた。

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1146670 1 デスクの目~政治部 2020/04/06 15:00:00 2020/04/06 15:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200401-OYT8I50048-T.jpg?type=thumbnail

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