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コロナ疲れに勇気 時代と響く森下洋子「くるみ割り人形」の不思議

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編集委員 祐成秀樹

 バレエ界の年の瀬の風物詩と言えば、「くるみ割り人形」です。コロナ下の今年も、各バレエ団が趣向を凝らした舞台を上演します。私は一足先に、11月15日に東京文化会館で、森下洋子さんが主演した松山バレエ団の「くるみ割り人形」を見てきましたが、「コロナ」で沈んだ心に不思議と響く舞台で、元気をもらえました。そこで、今回は、松山バレエ団の清水哲太郎さん演出版の「くるみ割り人形」にスポットライトを当てます。

クララの家での楽しいクリスマスパーティー ©エー・アイ 写真・飯島直人
クララの家での楽しいクリスマスパーティー ©エー・アイ 写真・飯島直人

 まずは、物語のおさらいから。クリスマスパーティーで、少女クララは、ドロッセルマイヤーおじさんから不格好なくるみ割り人形を贈られます。クララは人形を抱いて眠りにつくと、不思議な夢の世界に。そこで、ネズミの大群に襲われますが、人形と力を合わせて撃退します。すると、魔法が解けて人形は元の美しい王子の姿に戻り、彼女を雪の国やお菓子の国に案内します。

初演は不評 歴代振付家が改訂にトライ

 1892年にサンクトペテルブルクで初演。作曲はチャイコフスキー、振り付けは古典バレエの父と呼ばれるマリウス・プティパと、レフ・イワノフ。ところが、初演は不評だったそうです。プティパが体調を崩して制作にさほど参加できなかったこと、主人公が子供のために踊りの見せ場が少なかったことなどが理由と言われています。

 ただし、音楽は親しみやすい旋律ばかりで傑作です。そこで、その後、多くの振付家はチャイコフスキーの組曲に独自の振り付けをして上演するようになりました。その結果、今では世界中で様々なバージョンの「くるみ」が見られます。

別れの踊り、しぶといネズミ 唯一無二の清水哲太郎版

 その中で、松山バレエ団総代表の清水さんが演出・振り付けした版は、唯一無二の個性を持っています。初演は1982年。以来、森下さんがクララ役を踊り続けていること自体が、他のバレエ団ではあり得ないことです。しかも、年を重ねるごとに森下さんが衰えるどころか、表現の深みが増しているのがすごい! 一方、清水さんは世情に合わせて手を加え続けていますから、毎年見に行くと、定番に触れる安心感とともに新たな感動が得られるのです。

清水版独特のしつこいネズミたち ©エー・アイ 写真・飯島直人
清水版独特のしつこいネズミたち ©エー・アイ 写真・飯島直人

 演出面の大きな特徴の一つは、クララがパワフルなこと。ネズミと戦う場面では、攻められる王子を積極的に守ります。また、終盤、クララと王子による「別れのパ・ド・ドゥ」という切ない踊りを追加しました。一夜の夢物語で終わらせず、クララが愛する人との出会いと別れを経験して、大人の女性へと成長するドラマに仕上げたのです。私がバレエを見始めた2000年頃、松山版の最大の見どころは、この成長物語でした。

 このほか、冒頭でクララが家の外に出てパーティーの客を歓迎するところとか、ネズミを不気味でしつこく造形したことも、清水版の特徴です。

リーマン後、震災後に改訂

オルゴールの上には、亡くなった人を模した人形がびっしり ©エー・アイ 写真・茶山瑛理紗
オルゴールの上には、亡くなった人を模した人形がびっしり ©エー・アイ 写真・茶山瑛理紗

 08年のリーマンショック後は、当時の記事を読むと、時代設定を1870年代ドイツと明確にしています。戦争で物資が乏しい中、(つら)い一年を乗り切った人々がクララ家の手作りパーティーに集って励まし合うという始まりにしたのです。これって、当時の観客の気分と重なりますよね。

 2011年の東日本大震災後は見える形で改訂しました。パーティーに集う人も被災したとして、彼らが犠牲者に似せた人形をクララ家に持ち寄る設定にしました。舞台上は、人形をびっしり(まつ)ったアンティーク・オルゴールが設けられて厳粛な雰囲気に。毎年、この場面を見ると、震災の年の気分が(よみがえ)るのみならず、その年に逝った知人たちのことを思い出します。

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1670103 0 スポットライト 2020/12/03 10:00:00 2020/12/03 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201201-OYT8I50080-T.jpg?type=thumbnail

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