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森山未來も宇宙の神秘も踊り狂う 超人・笠井叡と怪人・麿赤児の驚きの新作

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編集委員 祐成秀樹

 すごいものを見てしまった――。これは、舞台の感動を語る時、最大級の賛辞の一つです。そんな強烈過ぎる舞台を2月のはじめに立て続けに見ました。世界的に活躍する舞踏の大御所、笠井(あきら)さんと麿(まろ)赤児(あかじ)さんの新作公演です。そこで、今回は、この超人と怪人にスポットライトを当てます。

 まずは舞踏について説明しましょう。1950年代後半に創始された日本独特の身体表現で、白塗り、がに股、すり足、緩慢な動きなどを特徴とし、肉体そのもので生や死など人間存在の根源に迫ります。醜さをもさらす踊りは、見た目の美しさを追求しがちな西洋のダンス界に衝撃を与え、「BUTOH」として定着します。

暴力的エネルギーと猥雑なスペクタクル

笠井叡さん(左)と麿赤児さん(2012年)
笠井叡さん(左)と麿赤児さん(2012年)

 笠井さんと麿さんは43年生まれと同い年ですが、歩みと作風は異なります。笠井さんは高校卒業後、大野一雄さんと土方巽さんに出会って舞踏の誕生に関わります。その後、ドイツに留学し、言葉や音楽の響きを動きに変換するオイリュトミーの研究に没頭しました。古今東西の文献に通じた博識家で、作品は深い思索と暴力的なエネルギーに満ちています。

 麿さんはアングラ演劇出身で、唐十郎さんが率いた状況劇場で活躍しながら土方さんに師事し、72年に舞踏集団・大駱駝艦(だいらくだかん)を結成。群舞と(わい)(ざつ)なスペクタクルを通じて人類の根源を探っています。最近は俳優の大森南朋さんの父親としても知られています。

 ここから笠井さんの新作「櫻の樹の下には―笠井叡を踊る―」と、麿さんの新作「ダークマター」を詳報します。それぞれオンラインで配信されますので、ネタバレが気になる方は、映像を見た後に読んでください。

桜の樹の下に埋められているもの

島地保武さん(写真・bozzo)
島地保武さん(写真・bozzo)

 「櫻の樹の下――」は、大植真太郎さん、島地保武さん、辻本知彦さん、森山未來さん、柳本雅寛さんという、日本のダンス界のスターを迎えて「ポスト舞踏派」を目指すという意欲作です。笠井さんが想を得たのは、梶井基次郎の掌編「桜の樹の下には」です。「桜の樹の下には()(たい)が埋まっている!」で始まる同作の世界観と、師・土方さんの思想との共通点を感じたとか。「普通、ダンスは生命的な豊かさや感情を表す。土方さんはそれを一切やめて、ダンスは死から始まると考えた。『舞踏とは命がけで突っ立った死体』だと」と本紙の取材に答えています。5人にはユリアヌス大植、カリオストロ島地、ジニウス辻本、ド・モレー未來、ジャンヌ柳本と歴史上の人物にちなんだ愛称を与えています。

5人のスターを屍体に

笠井叡さん(左手前)(写真・bozzo)
笠井叡さん(左手前)(写真・bozzo)

 見たのは2月4日、吉祥寺シアター。冒頭から度肝を抜かれました。5人がたたずむ中、笠井さんは白塗りにして長いまつ毛、ピンクの耳飾り、ドレス姿という異様な姿で現れたのです。

 前半、5人は苦しげでした。腰を落とし、背を曲げ、幽霊のように手を垂らすなど舞踏独特の姿形で踊る。これは、バレエやジャズダンスなど、それぞれが培った技を封じ、「屍体」にして笠井ワールドに追い込む儀式のよう。それでいて、肉体にはエネルギーがみなぎり、誰もが息を切らして(こう)(こつ)の表情。「死からダンスが始まる」瞬間が現出しました。

超人・笠井叡の覚醒と狂気

森山未來さん(左)と辻本知彦さん(写真・bozzo)
森山未來さん(左)と辻本知彦さん(写真・bozzo)

 それからは、驚きばかり。藤圭子さんの「命預けます」が流れる中、白い振り袖姿の森山さんは、危険な色気をたたえた手つきで踊った後、日本刀を構える柳本さんと(たい)()します。刀の光跡と着物の裾からのぞく(なま)めかしい脚。殺気とエロチシズムの対比が鮮烈でした。

 島地さんがダイナミックなソロを披露すると、笠井さんは覚醒したようで、一緒に狂おしく踊ります。体の線はシャープで、動きのキレは良く、喜寿とは信じられません! この「超人」に魅入られたように5人が胴上げをする場面も。また、辻本さんの柔らかく、まろやかな独舞も見事でした。

花吹雪 褌 日本の美

大量の花吹雪が降り注ぐクライマックス(写真・bozzo)
大量の花吹雪が降り注ぐクライマックス(写真・bozzo)

 見せ場は、花吹雪が散る中、宙づりにされた笠井さんの下で、5人が繰り広げる乱舞です。彼らは裸の上体に入れ墨を描き、(ふんどし)を締めたりりしい姿。危ういバランスのポーズを取る度、床で転がる度、目を見開く度に(すさ)まじい気を放ちます。ここの笠井さんは(らん)(まん)な桜。5人からエキスを吸い上げて狂い咲いていました。同時に5人も笠井さんに触発され放ち続けるエネルギーが止まりません。狂おしいほどの日本の美! 日本の力! 壮絶な力と倒錯感がみなぎる空間に圧倒されました。

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1849419 0 スポットライト 2021/02/18 10:00:00 2021/02/18 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210216-OYT8I50051-T.jpg?type=thumbnail

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