鈴木杏さん、小瀧望さんらに栄冠…異例ずくめでも大感動 コロナ下の読売演劇大賞
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私の大きな仕事の一つに、読売演劇大賞の運営があります。年ごとに演劇界の成果を顕彰する一大イベントなのですが、2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大により異例ずくめの運営を強いられました。ただ、その分、先月行われた贈賞式は大きな感動がありました。そこで、今回は、第28回読売演劇大賞にスポットライトを当てます。

この賞は、「舞台芸術に活力を」という願いを込めて1992年に創設されました。さすがに昨年は、開催の是非を検討しました。それでも困難な中、頑張っている演劇人を勇気づけようと「初志」を貫くことが決まりました。ただ、夏まで公演中止が相次いだため、上半期の作品が対象の中間選考会は中止し、通年の選考を今年1月6日の1次選考会で行いました。その後、緊急事態宣言が発令されたため、同29日の最終選考会はオンラインで実施しました。
コロナ下、記憶に残る活躍が焦点に
最終選考会では、大賞を最優秀各賞と新人対象の杉村春子賞の計6件の中から選びます。2020年度の候補は、最優秀作品賞「リチャード二世」、同男優賞・山崎一さん、同女優賞・鈴木杏さん、同演出家賞・藤田俊太郎さん、同スタッフ賞・齋藤茂男さん、杉村春子賞の小瀧望さん。審議では、まず「リチャード二世」、鈴木さん、藤田さんが推されました。ただ、コロナ下、2020年の記憶に残る活躍という視点で鈴木さんと藤田さんに絞られました。鈴木さんは、劇場が再始動して間もない7月、一人芝居「殺意 ストリップショウ」で体当たりの演技を見せ、10月の「真夏の夜の夢」でも好演しました。一方、藤田さんは、厳しい条件下で「天保十二年のシェイクスピア」「NINE」「VIOLET」という優れたミュージカルを3本も仕上げました。2人の優劣はつけ難く、最後は投票になり、1票差で鈴木さんに決まったのです。
本当に胸がいっぱい 杉村春子賞・小瀧望さん

贈賞式は2月25日に東京・千代田区の帝国ホテルで開かれました。普段は立食形式で行われ、日本中の演劇人がジャンルを問わず一堂に会する
その結果、会場は終始静か。受賞者のスピーチをじっくり聞けました。トップバッターは杉村賞の小瀧さん。「胸も、自分自身も今、いっぱいいっぱいになっております。この作品(「エレファント・マン」)のお話をいただいたのがちょうど1年前でして、その時はまさか、このような素晴らしい舞台に立てるとは思ってもおらず、本当に胸がいっぱいです」。飾らない言葉でかみしめるように思いを語り、爽やかな印象を残しました。
命がけのお客さんのために 大賞・鈴木杏さん

やはり、耳に残ったのは、コロナ下、厳しい中で演劇と向き合った感慨を語る言葉です。まずは、大賞・鈴木さん。「殺意」に出演していた時の心境を明かしました。「私にとって価値観ががらりと変わるような毎日でした。命がけで芝居を見に来てくださるお客様がいることを忘れちゃいけない、しっかり舞台に立たねばいけないと今でも思っています」。そして、スタッフへの感謝を。「感染対策を一から作っていかないといけない。どこからどこまでをどうすればいいのかと、悩んだり迷ったりしながらの日々だったと思います。そういう皆様に支えられて、私たち役者は、自由に舞台に立てました」
仲間の悔しさ詰まった重い賞 最優秀男優賞・山崎一さん

男優賞・山崎さんは、千秋楽を無事迎える貴さも語っています。「血のにじむような感染対策を施して、チーム一丸となって実行し、やっと初日の幕が開き、一人の感染者も出さずに全ステージを完走できたことが、こんなにうれしいことなんだと、改めて実感しました」
賞の重みが増したとも。「去年は、多くの舞台がなくなりました。私の舞台も2本中止になりました。悔しい思いだったり、
明けない夜はない 最優秀演出家賞・藤田俊太郎さん

そして、演出家賞・藤田さん。7月と9月の当欄で紹介した通り、コロナ禍で悔しい思いはしつつも、前向きさは失わなかったようです。
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