今だから描く日系人差別の実話…濱田めぐみ、海宝直人「アリージャンス」の熱過ぎる感動
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2月に当欄で紹介した「パレード」に続き、ホリプロが骨太な舞台を上演しました。米国発のミュージカル「アリージャンス~忠誠~」の日本版。第2次世界大戦中、12万人もの日系米国人が隔離された強制収容所での実話を基にした作品です。埋もれつつある史実や差別の問題を直視して、濱田めぐみさん、海宝直人さんらスターが全力で演じる人間ドラマは涙なしには見られません。そこで、今回は「アリージャンス」にスポットライトを当てます。
ジョージ・タケイさんの執念 トランプさんに観劇を

舞台化のキーマンは、日系人の俳優ジョージ・タケイさんです。1960~70年代に人気を集めたテレビシリーズ「スター・トレック(宇宙大作戦)」のミスター・カトウ役と聞けば、思い出す人は多いのでは。彼は、37年ロサンゼルス生まれ。5歳の時、家族でアーカンソーの収容所に送られ、その後、父親が忠誠を拒否したため、「反米主義者」を集めるカリフォルニアの収容所に移されました。
タケイさんは俳優として成功する一方で、全米日系人博物館の設立に関わるなど、日系人の地位向上や差別の歴史を語り継ぐ活動にも取り組んでいます。彼の体験を聞いたロレンゾ・シオンさん(プロデューサー・脚本)とジェイ・クオさん(作詞・作曲)が2008年にミュージカル化に着手。15年11月にブロードウェーで開幕し、翌年2月まで上演されました。タケイさんも出演しました。
マイノリティーへの差別は、米国では常に関心度の高い社会問題です。その頃は、大統領選に向けて、有力候補者だったドナルド・トランプさんの過激発言が目立ち、イスラム教徒の入国禁止を唱え始めました。いわば、日系人の強制収容と同様、出自だけで危険視したのです。そこで、タケイさんは、トランプさんに「アリージャンス」を見に来るよう呼びかけました。歴史を知らないと同じことを繰り返すという危機意識からの行動でしょう。
また、今年2月は、バイデン大統領が日系米国人の強制収容を「米国史で最も恥ずべき歴史のひとつ」と位置づけて、改めて謝罪をしています。

ブロードウェーの懐の深さ

そんな「自国の恥」をミュージカル化してしまう。ユダヤ人を狙った
カリフォルニアに住んでいた日系米国人のキムラ家は、1941年に真珠湾攻撃が起きると、自宅から追い出され、劣悪な収容所に移送されます。ワシントンではロビイストのマイク・マサオカ(今井朋彦さん)が日系人を守るために政府と交渉し、日系人部隊の創設を進言します。それは、危険な戦地で死をも恐れずに戦わせて日系人の評判を高めることを狙ったもの。やがて収容所で「忠誠登録質問票」が配られます。それは、従軍の意思や、米国への忠誠、すなわち天皇への忠誠の拒否も問う踏み絵のような内容でした。