貫いた蜷川スピリット さいたまゴールド・シアターの静かで過激な終幕

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若かった老人たちに超高齢の波

 高齢者劇団とはいえ、あの頃のゴールドは若かった。目や肉体からギラギラと熱気がにじんでいました。ただ、メンバーの追加募集を行わなかったため、超高齢化は進み、2021年には平均年齢が81歳以上に。さすがに活動困難な人が増えた上にコロナ禍に見舞われたことなどから、運営する彩の国さいたま芸術劇場は解散を決めました。最終公演のチラシの裏面には、メンバーの顔写真が19枚。かつては、40人以上が出演して、彼らの顔写真でチラシが埋まっていたことを思い出すと、 (さび) しさを感じざるを得ません。

身体からわき上がる言葉

 この最終公演を、千秋楽前日の12月25日に観劇しました。演出は、作者の太田さんの愛弟子・杉原邦生さん(39)です。

 舞台中央には、取っ手の壊れた水道が置かれ、蛇口から間断なく水が流れている。奥には、靴や下着、自転車、鳥かごなどの投棄されたものの山。描かれるのは、この水場に、荷物を背負った人々が現れ、近寄って、水に触れて去っていくことの繰り返しです。出演者は、杉原さんに2メートルを2分で歩く訓練を受けてきましたから、動きはとてもスローです。その分、内側に感情がたまるのか、身ぶりや手ぶりによるやり取りや、目つき、たたずまいから泉のように言葉がわき上がってくるように見えました。

みずみずしい少女、崇高な夫婦の営み

 冒頭、さわやかな風を運び込んだのは、少女を演じた石川佳代さん(77)。白いワンピース姿でそよ風のように駆け込んでくる。不安げな表情でコップに水をくみ、一心に見つめて飲み干した後、晴れやかになった表情のみずみずしいこと! 水とは命の源であるいうテーマの一つを鮮烈に印象づけました。以後、水に触れ、生気をよみがえらせた老人たちのドラマが静かに繰り広げられます。

夫婦を演じた百元夏繪さん(左)と北澤雅章さん 撮影・宮川舞子
夫婦を演じた百元夏繪さん(左)と北澤雅章さん 撮影・宮川舞子

 特に劇的だったのは、北澤雅章さん(79)と百元夏繪さん(79)が演じた「夫婦」という場面。ロープをかついだ夫が歩いてくると、後方からそのロープに引かれて乳母車を押す妻が現れる。そして妻が歩むことを拒むと、夫が「おやっ」と振り返る。これ、想像力を刺激するシチュエーションですよね。懸命に働き家族を引っ張ってきた夫に、控えめに寄り添ってきた妻。ただ、人生の 終焉(しゅうえん) を控えて過去を振り返った時、夫が忙しさのあまり薄情だったことに気付いた妻が () ねる。私はこんなドラマを妄想しました。それからはラブシーン。彼らは水筒に注いだ水でのどを潤した後、お互いの体を探り合います。妻が夫に覆いかぶさったり、床上で抱き合ったり。若者が演じたらエロチックに映りそうですが、老優が演じると全く違う。年輪を重ねた肉体を慈しみ合っているようで、崇高に見えました。

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2669386 0 スポットライト 2022/01/13 10:00:00 2022/01/21 11:00:56 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/01/20220111-OYT8I50029-T.jpg?type=thumbnail

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