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最適な治療 アプリで処方…禁煙向け 実用化第1号

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 スマートフォンを使った治療用アプリを開発する動きが広がっている。昨年12月には、禁煙を続けるためのアプリが日本で初めて公的医療保険の対象になった。海外で実用化が進んでおり、国内でも薬や手術と並ぶ「第3の治療法」として注目されているが、普及に向けた課題も多い。(編集委員 二階堂祥生)

米先行 国内も保険適用

日常利用

 治療用アプリの基本的な使い方はこうだ。

 まず医師が通常の医薬品のようにアプリを処方する。患者はスマホにダウンロードし、病気の症状や体調などを入力すると、その内容に応じた対処方法が自動で画面に示される。

 治療用アプリは患者の意識や生活習慣を変えるよう促し、症状を和らげたり、治療の効果を高めたりすることを目指す。高血圧やニコチンなどの依存症の場合は病気を根本から治す可能性を秘める。

 患者は副作用をほとんど気にせず、日常的に使える。医師はアプリの利用状況をチェックすることで、患者の自宅などでの様子を把握でき、患者の通院時の効果的な治療につなげられる。

 病気の有無にかかわらず自由に使える有料・無料の「健康アプリ」はすでに多くあるが、治療用アプリは医師による治療行為の一環で使われる。一般の医療機器と同様、臨床試験(治験)を経て、厚生労働省の承認を得る必要もある。新薬の開発には1000億円規模の資金が必要とされるが、治療用アプリは数億~数十億円で済む。

 先行する米国では2010年に糖尿病の治療用アプリが初めて承認され、薬物依存向けなども実用化されている。欧米では公的保険だけでなく、民間の保険会社がサービスの一環としたり、企業が社員に提供したりするなど、利用が広がっているという。

 コンサルティング会社のローランド・ベルガーが、治療用アプリを中心としたデジタル療法の市場規模について、18年に20億ドル(約2000億円)だったのが24年に60倍の1200億ドルに上ると推計するなど、これから急成長するとの見方がある。

 日本では14年、医薬品医療機器法(薬機法)の改正によりソフトウェアが医療機器の対象となり、近年になって開発の機運が高まった。治療用アプリが広がれば、年間40兆円超に上る医療費を抑制する可能性がある。

医師も確認

キュア・アップの禁煙治療用アプリ
キュア・アップの禁煙治療用アプリ

 国内では、医療ベンチャー「キュア・アップ」(東京都)の禁煙治療用アプリが昨年12月に保険適用された。

 ニコチン依存症の患者が喫煙したくなった時にこのアプリのボタンを押すと、「ガムをかみましょう」「深呼吸をしましょう」などと促される。喫煙時に上昇する呼気中の一酸化炭素濃度を専用機器で測ると、アプリにデータが反映され、医師も確認できる。

 治験では、ニコチンパッドなど通常の禁煙治療とアプリを併用したグループは半年後に63・9%が禁煙に成功し、通常の治療だけのグループより13・4ポイント高かった。

 同社は、高血圧やがんなどのアプリ開発も進めている。佐竹晃太・最高経営責任者(CEO)をはじめ複数の医師がおり、医療の専門的な知識をアプリのアルゴリズム(計算手順)に落とし込んでいく。谷川朋幸取締役は「画面の向こう側に医師の存在を感じてもらえるアプリを目指している」と話す。

 医療機器大手も参入する。テルモは医療ベンチャー「マイシン」(東京都)と組み、生活習慣の乱れなどが原因となる「2型糖尿病」向けの治療用アプリの開発に乗り出した。もともと血糖測定器などを手がけており、アプリを加えることでより日常的に治療を支援したい考えだ。テルモの木川善也・DM・ヘルスケアグループ長は「個々の患者に寄り添っていきたい」と強調する。

 アプリは患者が継続して使わないと効果を発揮しない。どのようにメリットを感じてもらい、関心を持ち続けてもらうかなど、試行錯誤しているという。

普及へ適正な価格 課題…ソフト更新 基準必要

 治療用アプリが本格的に普及するには、幾つかの課題がある。

 第一に、保険適用の枠組みが未整備なことだ。手術や放射線治療といった従来の医療技術と異なり、治療用アプリは価格決定に際しての評価基準が定まっていない。新たな製品を開発しても、現状のままでは手続きに時間がかかるだけでなく、スマホ上で購入できる一般のアプリと同じとみなされ数百円程度の保険算定になるリスクがある。これでは事業として成立せず、産業化につながらない。

 こうした中、キュア・アップの禁煙治療用アプリは、在宅療養に関する既存技術の料金を準用する形で、価格が2万5400円(3割負担の場合は7620円)に決まった。あくまで特例措置で、今後も同様の扱いになるかはわからず、佐竹CEOは「開発コストに対する収益が見通しやすくなるよう、枠組み作りを急いでほしい」と話す。

 二つ目は、治療用アプリとして承認を受けた後、ソフトや仕様の更新をどこまで自由にできるのか、明確な基準が示されていないことだ。厚労省も審査の迅速化などに乗り出す方針で、今後は企業が開発しやすいような環境の整備が欠かせない。

 治療用アプリは医師が使い方や利点を熟知したうえで、患者に指導しなければいけない。医師の理解を深めることも重要だ。

 ローランド・ベルガーの諏訪雄栄よしひろパートナーは「デジタル技術に強みを持つ新興企業、医療業界にネットワークを持つ大手企業がうまく連携しながら、治療用アプリの開発や普及に取り組む必要がある」と指摘する。

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1834810 1 解説 2021/02/11 05:00:00 2021/02/11 05:00:00 2021/02/11 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210210-OYT8I50124-T.jpg?type=thumbnail

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