読売新聞オンライン

メニュー

SNSで取引急増 精子提供 無規制の危険

[読者会員限定]
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 SNSを介して、個人間で精子がやりとりされるケースが増えている。子を授かりたいと願う不妊夫婦や同性カップルらが取引しているが、規制する法律はなく、安全面や倫理面で問題も指摘されている。何らかのルール作りが求められる。(大阪社会部 川崎陽子)

「安全・倫理」に懸念の声

仮名でやりとり

 複数の利用者らによると、女性側は精子提供者(ドナー)と基本的にお互い仮名でやりとりし、何度か会ってドナーを決めることが多い。容器に入った精液を直接受け取り、注射筒で自ら性器に注入。性交渉を伴うケースもあるという。

 ツイッターには「#精子提供」「#精子ドナー」などの検索ワードを付けたアカウントが300件以上存在する。「匿名、無償、秘密は絶対守ります」などと投稿し、精子提供を持ちかけている。

 利用者が渡す報酬は、交通費などの実費のみというケースも少なくない。最近投稿を始めた大阪府の20歳代男性は「不妊で追いつめられる人を助けたい」と強調する。

 一方、学歴などドナーが申告した内容が虚偽だったとしてトラブルになるケースがあったほか、性交渉を執拗しつように求めるドナーもいるという。

AID治療休止

 知らない人の精子をもらい、子をもうける。そんな不妊治療は、国内でも70年以上前から行われてきた。「提供精子を用いた人工授精(AID)」と呼ばれ、これまでに1万人以上が誕生しているとされる。

 日本産科婦人科学会(日産婦)の指針に沿って、決められた12医療機関のみで実施。精子は匿名の学生ボランティアらが提供し、感染症などを検査して安全を確認した上で、凍結保存されたものを治療に使う。

 もっとも、法的には何の規制もない。AIDを含む生殖補助医療を巡っては、20年ほど前から何度か法整備の機運があったが、夫婦以外の第三者が関わることから、「伝統的な家族観を壊しかねない」などの反発が強く、見送られてきた経緯がある。

 近年は精子の提供者が減っている。将来父親として認知を求められる危惧が広がったためだ。必要な精子が十分確保できず、AID治療を休止する医療機関が相次いでいる。実績全体の半数程度を占めてきた慶応大病院も2018年、新規の受け付けを休止。この頃からネットでの個人間取引が急増したとみられる。

公的システムを

 国立社会保障・人口問題研究所のデータでは、不妊治療を経験したことがある夫婦は年々増え、5・5組に1組に上る。不妊の半分は無精子症など男性側に問題があるとされ、第三者の精子への需要は小さくない。

 また、精子を求める人は多様化している。東京都に住むレズビアンの40歳代女性は昨年、ネットでドナーを探し、提供精子で長男を出産した。女性は「他に選択肢がなかった」と語る。

 日産婦の指針では、AID治療を受けられるのは法的に結婚している夫婦に限られる。同性カップルや非婚で子を産み育てる「選択的シングルマザー」は対象外で、個人間取引に頼らざるを得ないのが現状だ。

 だが、AID治療とは違い、個人間取引は基本的に医療を介さないため、感染症など精子の安全面に不安がある。ドナーの情報も真偽を確かめようがない。「命の源」がネットで簡単に選べる状況にも違和感がある。

 慶応大の田中守教授(生殖医学)は「遺伝病を子孫に残してしまう可能性もあり、精子の個人間取引は論外だ。必要とする人に公平に、ドナーを選ばない形で安全に非営利で提供されるべきで、献血や臓器提供のような公的システムが必要ではないか」と指摘する。

「出自知る権利」も課題

 国会では昨年12月、生殖補助医療で生まれた子の親子関係を定めた民法特例法が成立。AIDで生まれた子の父親は、ドナーではなく治療に同意した夫とした。ただ、同医療をどのように規制するかについては、付則で「2年をめどとして検討し、必要な法制上の措置を講じる」と先送りした。

 精子などの提供に関する規制のあり方や、対象を夫婦以外にも広げるかなど、論点は多い。生まれた子が、自らの誕生の経緯や遺伝上の親を知ることができる「出自を知る権利」も焦点だ。

 日産婦の指針では、AIDのドナーは匿名とされている。現状ではAIDで生まれた子だけでなく、両親もドナーを知らない。

 23歳の時にAIDで生まれたことを知った女性は、昨年12月の衆院法務委員会に参考人として出席し、「親からの(早期の)告知と、知りたいと思った時に提供者情報にアクセスできる環境が絶対に必要。それが整えられないなら、この技術(AID)はやめるべきだ」と訴えた。

 出自を知る権利は、ドイツや英国などでは法律で定められている。日本も批准する国連の「子どもの権利条約」に明記されており、国内でも保障するよう求める声は強まっている。

 権利を認めるのであれば、親は他人の精子で生まれた事実を子に伝えることが大前提になり、親の覚悟も問われる。また、匿名でなくなればAIDのドナーがさらに減ると懸念する声もあり、難しい問題だ。

無断転載・複製を禁じます
2030318 1 解説 2021/05/05 05:00:00 2021/06/01 17:39:52 2021/06/01 17:39:52 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210504-OYT8I50049-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)