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奨学金 保証制度見直し機運…返済巡り札幌地裁判決

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札幌地裁に提訴した原告2人(5月13日午後、札幌市中央区で)
札幌地裁に提訴した原告2人(5月13日午後、札幌市中央区で)

 国の奨学金の保証人に必要以上の返済をさせたとして、札幌地裁が5月13日、日本学生支援機構に約140万円の返還を命じた。この判決を巡り、保証の仕組みを見直すよう求める声が上がっている。貸与型奨学金では、返済に窮した借り手の学生の救済も課題となっている。(教育部 福元洋平、北海道支社 牟田口輝)

借り手側の救済課題

過払いを認定

 原告は、北海道小樽市の男性(75)と、札幌市の女性(68)。それぞれ別の借り手がともに父親を連帯保証人とし、男性と、女性の死別した夫が生前、保証人になった。

 貸与型奨学金は、借り手が卒業後に得た収入で返済するが、返済が滞ると機構は連帯保証人に催促し、それでも返済がなければ保証人から回収する。訴訟のケースでは、借り手と連帯保証人が返済できなかったため、機構は保証人の原告ら2人に未払いの債務の全額を請求。男性と、女性の亡くなった夫は計約300万円を支払っていた。

 争点は、連帯保証人を含めて複数の保証人がいる場合、2人なら負担割合が半分に、3人なら3分の1に減る民法の原則「分別の利益」が適用されるかどうかだった。原告は「機構から分別の利益を知らされなかった」として、過払い分の返還を求めて2019年5月に提訴。「保証人が主張しなくても、効果が生じる」とした。

 機構は、保証人が主張しなければ分別の利益は適用されず、全額支払い義務があると反論。判決は、分別の利益は保証人が主張しなくても適用されるとして、原告らの債務の上限は半額と認定、機構に過払い金の返還を命じた。機構は判決を不服として、5月29日付で札幌高裁に控訴した。

 原告側弁護団によると、機構が保証人に全額請求した件数は10~17年度に825件、計約13億円に上る。判決が確定すれば保証人の負担は軽減されるが、残りの債務は帳消しにされず、再び借り手が返済を求められるとみられる。

機関保証へ

 機構は回収したお金を、新たな奨学金に充てて事業を継続している。2人の保証人による「人的保証」を採用しているのは、確実に返済してもらうためだ。

 だが、近年は晩婚化で連帯保証人となる親が高齢化し、支払い能力が低下。核家族化で親族間のつながりも弱まり、保証人の候補も減っている。萩生田文部科学相は5月18日の閣議後記者会見で、機構の人的保証について「時代の変化に合わせた見直しも必要では」と述べた。

 保証人を立てられない借り手に配慮し、04年には「機関保証」が導入された。

 公益財団法人「日本国際教育支援協会」に借り手が保証料を払うと、協会が債務を保証する。保証料は無利子の大学生で月額500~2800円程度。借り手が1年滞納すると、協会が機構に代位弁済する。機関保証を選ぶ割合は増えており、19年度は前年度比6・3ポイント増の54%だった。

赤字運営

 ただ、機関保証にも課題はある。協会が代位弁済しても債務は帳消しにならず、協会から返済を求められるため、借り手の救済にはならない。保証料を払う分、人的保証よりも学生の負担は増える。

 協会の運営も苦しい。協会によると、19年度末時点で、協会が代位弁済した借り手のうち返済に応じたのは全体の45%にとどまった。19年度の収支は、保証料収入が約209億円だったのに対し、代位弁済の金額は約272億円で、協会の保証事業はここ数年、赤字が続いている。過去にプールした保証料を充てているが、資金が尽きれば保証事業の存続が危ぶまれる。

 奨学金制度に詳しい桜美林大の小林雅之教授(高等教育論)は「奨学金を借りる学生は親の所得が低いケースが多い。失業などで返済不能になれば、連帯保証人や保証人も払えなくなるリスクが高い。機関保証が望ましいが、困窮した借り手を救済するには、給付型奨学金の充実も含め、奨学金のあり方を抜本的に見直すべきだ」と指摘している。

貸与型 回収不能292億円…19年度

 奨学金の返済に窮している借り手は10万人を超える。裁判になったケースは氷山の一角にすぎない。

 日本学生支援機構によると、貸与型奨学金を返済中の借り手は約453万人(2019年度)。返済が必要な貸付総額は7兆4240億円で、1人当たりの平均債務残高は160万円を超える。このうち約3・3%の15万人は、3か月以上滞納(計2409億円)している。19年度には、借り手や保証人が自己破産するなどして計292億円を「回収不能」として処理した。

 「奨学金問題対策全国会議」事務局長の岩重佳治弁護士によると、就職氷河期に学生時代を送った40歳代前後の借り手を中心に、返済計画や自己破産の相談を多く受けるという。岩重弁護士は「非正規雇用が多く、不安定な世代だ」と指摘する。

 国の奨学金は1943年に始まり、当初は貸与型のみだった。00年代以降、就職できなかったり勤務先をリストラされたりした借り手が返済に苦しむ例が増え、社会的な課題となった。そこで政府は17年度、一部に返済不要の給付型奨学金を導入。20年度には消費増税分を充て、授業料減免とセットで、対象や金額を大幅に拡充させた。

 給付型の対象は住民税非課税世帯などで、生活費支援などの名目で最大で年間約91万円、支給される。これとは別に、授業料も年間最大で約70万円、減免される。貸与型は無利子と有利子があり、無利子は最大で年間約77万円、有利子は同144万円、それぞれ借りることができる。

 21年度の貸与型の事業規模は、約127万人を対象に約1兆円。給付型は約50万人を対象に約2300億円の予算がついている。

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2093686 1 解説 2021/06/02 05:00:00 2021/06/02 05:00:00 2021/06/02 05:00:00 札幌地裁に提訴した原告2人(13日午後3時12分、札幌市中央区で)=中薗あずさ撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210601-OYT8I50092-T.jpg?type=thumbnail

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