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認知症対策 生保・銀行が強化…広がる事前登録

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 認知症の人の保険加入状況を家族が照会できる新制度が7月から始まるなど、保険会社や銀行が認知症への対策を強化している。高齢化で認知症の人が急増する中、判断能力が低下してからの対応には限界があるため、事前に対策を講じるサービスの普及が欠かせない。(社会保障部 沼尻知子、村上藍)

契約照会や出金 家族も可能

相談 年400件

7月に開始した生命保険契約照会制度を説明するパンフレットなど
7月に開始した生命保険契約照会制度を説明するパンフレットなど

 「単身赴任中に妻が突然認知症になり、保険会社がわからず困った」。京都府宇治市に住む男性(73)は振り返る。

 妻から保険に加入していると聞いていたが、会社名は知らず、調べる方法もなかった。しばらくして自宅に届いた保険料の不払いの通知で保険会社がわかり、「まとまった額の支払いが必要になるのではと怖くなった」と話す。

 家族が認知症になった時、加入していた保険や銀行口座がわからず、困惑する家族は少なくない。生命保険協会の相談窓口には「家族が加入していた保険を調べたい」といった相談が年約400件寄せられていた。

 そこで生保協会は7月から、認知症の人の加入状況を家族が調べられる新制度を始めた。3親等内の親族が生保協会のホームページ( https://www.seiho.or.jp/ )から手続きし、インターネットか郵送で必要書類を提出すれば、加入している保険会社を知ることができる。利用料は3000円だ。

 生保協会の高橋 正国まさくに 生命保険相談室長は「保険金の請求漏れを防ぐセーフティーネットとして役立ててほしい」と話す。

資産160兆円

 全国銀行協会は2月、認知症の人の預金引き出しに関する新見解をまとめた。医療や介護にかかる費用の振り込みなど「本人の利益に適合することが明らかな場合」に限り、代理権のない家族による手続きにも応じる。

 預金の引き出しには原則として本人の意思確認が必要だ。認知症で口座が凍結されてしまうと、代理権がなければ、家族でも引き出すことはできなくなる。

 各銀行は独自に使い道などを確認した上で出金に応じるかを判断していた。ただ、納得できない家族が「感情的になって窓口で大声を出す」(大手銀行)など、トラブルとなる事例は後を絶たない。全銀協の新見解で、より多くの銀行で状況に応じた対応が広がると期待されている。

 認知症の人は2025年に約730万人と、高齢者の5人に1人の割合になると推計されている。第一生命経済研究所の試算では、認知症の人が保有する金融資産は20年度に160兆円。30年度には215兆円に達し、家計金融資産の1割を占める見通しだ。

代理人が請求

 各社が注力するのは、判断能力が低下する前に対策を講じておくサービスの充実だ。

 生保各社は、事前に代理人を登録する「指定代理請求特約」の利用を呼びかけている。保険金の請求手続きは原則として本人に限られるが、代理人が請求出来る。

 住友生命は昨年3月、指定代理請求特約に加え「契約者代理制度」を導入した。事前に指定された代理人の裁量を広げ、保険の解約や、契約内容の変更なども可能となる。

 銀行では、三菱UFJフィナンシャル・グループが3月「予約型代理人サービス」を始めた。顧客の判断能力が低下した際、事前に指定された親族らが診断書を提出すると、代理人として、預金の引き出しや金融商品の売却などができる仕組みだ。常陽銀行には事前に登録した親族からの問い合わせに、預金残高などを答えられる「家族連絡先登録制度」がある。

 慶応大学の駒村康平教授(社会保障論)は「認知機能の低下は誰にでも起こりうる。社会全体で支えていく必要がある。地域の福祉関係機関とも連携して家族の状況などを確認し、必要性があれば出金に応じるといった柔軟な対応が求められる」と指摘する。

成年後見制度 利用進まず…手続き煩雑、費用負担重く

 認知症などで判断能力が低下した時、本人に代わって金融資産を管理する仕組みには、「成年後見制度」がある。家庭裁判所などの手続きを経た後見人らが資産の管理を代行する制度で、銀行預金の引き出しも可能だ。

 ただ、手続きの煩雑さや、管理する財産の額に応じて月額数万円の費用負担が生じることもあるため、利用は20年末時点で約23万人にすぎない。保険会社や銀行は成年後見制度の利用を促してきたが、「手続きが面倒といった理由で拒絶されるケースがある」という。

 銀行業界では窓口で対応にあたる行員が認知症に関する知識を深め、対応を改善する取り組みも広がる。

 三井住友信託銀行は、認知症の症状や地域の対応窓口など認知症に関わる幅広い知識を問う「銀行ジェロントロジスト認定試験」を営業店の全職員が受験する。横浜銀行も行員約2400人が研修を受けた「認知症サポーター」となり、全支店に配属している。

 三井住友信託銀行人生100年応援部の谷口佳充部長は「認知症の症状は一様ではない。行員が知識を身につけ、一人ひとりの状況に合わせた対応ができるようにしたい」と力を込める。

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2210213 1 解説 2021/07/16 05:00:00 2021/07/16 05:00:00 2021/07/16 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210715-OYT8I50086-T.jpg?type=thumbnail

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