完了しました
ロシアによるウクライナへの「全面侵攻」開始を受け、今後の国際情勢はどう展開していくのだろうか。バイデン米大統領はじめ欧米諸国がプーチン露大統領を外交交渉で止められなかった背景には、何があったのか。紛争はどこまでエスカレートし、中国をはじめ類似の権威主義国家にどんな影響を与えるのか。揺らぐ国際秩序の中で、日本はどう振る舞うべきか。識者2人に聞いた。
プーチン的世界観 背景…日本国際問題研究所理事長 佐々江賢一郎氏

北大西洋条約機構(NATO)の東方への拡大こそが問題だと何度も怒りを込めて訴えていたプーチン氏の積年の恨みが出たという意味では、今回の軍事行動は危険性が高い。
ロシアはG7(先進7か国)に加わってG8を形成した際も、西側との統合に利益を見いだす一方、自国の戦略的利益を考える立場を捨てきれず、孤立した。何世紀も西側、欧州社会に包囲されているとのメンタリティーと、NATOに押し込まれているという「プーチン的世界観」の両方が事態の背景にあり、エリツィン元大統領やゴルバチョフ元(ソ連)大統領が同じことをしたかといえば大いに議論の余地があり、「プーチン的賭け」と言える。
国際社会が、武力でできたウクライナでのロシアの支配地と共存しなければならない状況になれば、米国の威信は落ち、ロシアや中国を勢いづかせるという意味で、大きな転機だ。
ただ、これ以上やれば墓穴を掘ると、ロシア国内でも問題視したり、考えたりする場面が出て、外交的プロセスに戻る可能性はゼロではない。関係諸国は当面はウクライナを支援し、ロシアへの制裁を厳しく続けて、効果を見ながら出口を考え、公でなくても対話のチャンネルを開いておくことが重要だ。
G7に大したことはできないと誤解されないようメッセージを明確にし、ロシアの展開が速いので、制裁の決定に時間をかけず速やかに行動すべきだ。
日本が比較的早く措置を打ち出したのは良かった。今後は、英国やドイツの首脳が明言するように、経済的利益以上の大きな利益がかかっていると考えて臨んでほしい。問題の核心は、ロシアが国際法、国際秩序の問題に正面から挑戦したことだ。日本が信じる価値体系や、アジア太平洋諸国にも影響を与えぬよう、ロシアの行為は正当化できないとはっきり示すことが、日本の安全保障、戦略的利益にとって第一だ。
そうでなければ、東アジアで似たような事態が起きる流れが出て、欧米の協力を求めねばならない状況になったら、必ず「日本はウクライナ危機でどうだったのか」と問われる。日露の2国間関係についても物事と時間軸を考え、今は当面のアジェンダ(課題)より、日本の大きな戦略的利益を優先する必要がある。
攻撃を止められなかったとはいえ、欧米が外交交渉を最後まで追求した姿勢は戦略的に正しい。力対力で臨めばつけ入る口実を与えた。G7、関係諸国の間で意思疎通を行って団結してきたことは、今後の連携にも有益だと思う。
アフガニスタンからの米軍撤退とタリバン復権を見たロシアに、強気に出ればバイデン政権は対抗できないと考えさせた面があったとしても、直接的な誘因ではない。北京冬季オリンピックが終わったタイミングを狙ったとする議論もあるが、これまでのウクライナをめぐる長年の恨み、つらみがここで出たといえる。
米国はもう「世界の警察官」にならないと言っている。米国民自身が望まないし、かつてのように政治エリートが引っ張ることもできない。米国が軍隊を送り込んで大きな犠牲を払うことを米国民は支持しない。ただし、日本など同盟国の死活的利益がかかる場面では、米国は乗り越えてくる。そこは心配していない。むしろ日本にとっては、これまであまりにも米国に依存しすぎたという現実を見直す機会にした方がいい。
(編集委員 伊藤俊行)
1
2