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テクノロジーとともに進化するパラスポーツは
障害者を見る目を変える

久森紀之 理工学部 機能創造理工学科 教授

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障害者が健常者を超える――沸き起こった議論

最近、「パラスポーツ」(障害者スポーツ)がわが国のメディアでも盛んに取り上げられ、世界規模の大会が生中継されることも珍しくなくなりました。「ユニバーサル社会」の実現が求められる中で、スポーツ庁をはじめ国がその振興に力を入れているという背景もありますが、何よりまず、競技や試合が観戦して楽しめるものへと、確実にレベルアップしたことが大きいのではないでしょうか。

特別なテクニックやトレーニング法などの研究が進み、選手たちの能力が大きく向上したことはいうまでもありません。それと並行して、彼らの障害を補い、そのパフォーマンスを支えるスポーツ用の義肢・装具・用具も、目覚ましい進化を遂げているのです。わが国でも、この分野で産官学の良い連携ができつつあり、日本のものづくりの力が大いに貢献することが期待されます。

事故などで障害を負って夢を絶たれたアスリート、障害ゆえスポーツとは無縁だと思い込んでいる子供たちなど、そこに眠っている才能にパラアスリートへの扉を開くことができたら、そしてその輪を広げ、より多くの障害者に生きがいや生活の潤いとしてスポーツを提供することができたら……工学者としてこの仕事に関わる私は、大きなやりがいを感じています。

ところで、こうしたパラスポ−ツの発展をめぐり、2年前にあるできごとが世界中の注目を集めました。

走り幅跳びで健常者と肩を並べるまでに記録を伸ばしていた義足のジャンパー、マルクス・レーム選手(ドイツ)が、健常者とともに世界一を争う舞台への参加を希望。実現すれば金メダル候補とみられた同選手に対し、大会側は条件として、義足が有利に働いていないことの証明を要求し、これが困難であることから、結局彼は参加を断念しました。このときの大会側の対応をめぐり、賛否両論が沸き起こったのです。

テクノロジーに追いつくルール作り

レーム選手の問題は、記録・勝敗を争う競技としての厳密な公平性の確保という視点と、健常者と障害者の共生、あるいは障害者への偏見・差別意識といった視点が分けられずに論じられたために、複雑なものとなってしまったのかもしれません。

工学者の立場で言えるのは、テクノロジーの進歩は止められない、ということです。それを前提に、障害者・健常者を含めた「公平性」をどう規定するのか、そのルールを用意することが必要だということに尽きると思います。パラアスリートの記録は、より優れた義肢・装具の開発と、それを使いこなす選手の能力・技術向上の相乗作用で、今後もますます伸びていくことは間違いないのですから。

私自身が義足の開発において取り組んでいるのは、種目ごとに特化した機能・性能の追求です。メーカーが数少ないこともあり、複数種目にエントリーする選手でも、1種類の義足のみを使っているケースがほとんどです。しかし、短距離でも、直線だけの100mと、コーナーを回る200mでは義足に求められる機能が微妙に異なるはずで、長距離あるいは跳躍競技となれば、その違いは当然大きくなります。

また、義足の機能を最大限引き出すためには、ソケット(足と義足をつなぐ装具)の調整が重要であることはいうまでもありません。切断部位やその治療方法、周辺の血管の走り具合など、選手ごとに異なる医学的な条件を詳細に解析し、より精度の高いソケットのカスタマイズに生かす技術も研究しています。

レーム選手自身が、健常者と競うことよりも、パラスポーツへの関心を高めることが目的だったと述べていますが、その意味ではあの出来事は大きなきっかけとなりました。テクノロジーと切っても切れないパラスポーツへの理解が今後さらに深まって、選手たちが純粋にアスリートとして讃えられるようになること、そしてそれが、障害者や障害そのものを見る目の変化につながることを期待したいと思います。

そして一方では、優れたスポーツ用の義肢・装具の普及が、障害者と健常者が一緒にスポーツを楽しむ機会を増やしていくことも、また言うまでもないでしょう。

多彩な知識が要求されるスポーツ医学への工学からのアプローチ

もともと機械工学、とくに素材の疲労・摩耗・腐食など破壊にかかわる分野を専門としていた私は、先輩がつないでくれた縁で、整形外科の先生との協力のもと、ヒトの体内に埋入するデバイス(器具)の素材について研究を始めました。

人間の体内は、分泌される様々な体液の作用、複雑な機能を持つ細胞との関係、多様で不規則な動作による負荷など、きわめて特殊な環境です。その中での半永久的な耐久性・安全性を追求しなければなりません。

実験室でできるかぎり生体内に近い環境を作り、そこで素材の疲労・摩耗・腐食などを同時に測定できるシステムを組み立てること自体、困難を極めます。一方では、動物実験で実験室での実績をはるかに超える良好なデータが得られ、生き物の適応力・免疫力の素晴らしさにあらためて驚かされるといったこともしばしばです。研究室の学生たちも、やりがいと強い責任感を感じて実験に取り組んでくれており、頼もしいかぎりです。

こうした研究を可能にしている上智大学の機能創造理工学科は、機械工学科、電気・電子工学科、物理学科を統合して誕生しました。

グローバル化が進みあらゆることにスピードが求められる現代には、社会に出る前にできるだけ多彩な引き出しを準備することが大切になっています。しかもそれぞれの分野の知識に、ある程度の深さが要求されます。その意味で、本学科を含む上智の理工学部のカリキュラムは、まさに時代に超えるものになっていると感じます。

さらに、私がかかわっている、アスリートや障害者をめぐるスポーツ医学の分野は、メンタル面のケアや食事と栄養、休養など多角的・総合的なアプローチが求められますから、心理学や福祉関係の学科を擁する総合人間科学部などとの文理融合の連携も、今後は考えていきたいと思っています。

久森紀之 理工学部 機能創造理工学科 教授

1971年東京都生まれ。1994年工学院大学工学部化学工学科卒業。1996年同大学大学院工学研究科工業化学専攻博士前期課程修了。1999年同博士後期課程修了。博士(工学)。1999年上智大学理工学部機械工学科助手として着任。2018年より現職。専門は環境材料強度学,医療・福祉材料学。
2007年日本材料学会 ヤングアクティブ賞、2014年「造礁サンゴの結晶・組織構造を応用した人工骨の創製」にて日本サンゴ礁学会 優秀講演発表賞、2017年「下肢筋力測定器の開発」にて日本材料学会関東支部優秀講演賞を受賞。その他、受賞10件。
日本機械学会材料力学部門校閲委員、日本材料学会代議員、日本金属学会第4分科会委員。日本バイオマテリアル学会評議委員。材料試験技術協会常任理事などを歴任。日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会、骨折治療学会などにも所属。
機械工学を基礎に、整形外科インプラント材料の安全性や信頼性およびバイオメカニクスを活用したスポーツ医学に関する研究に従事。生体協調融和機能を有する金属系生体材料の創製や、レーザビームや電子ビームによる金属粉末積層(3D)造形法で患者個々の骨格・骨質等に合った人工関節等の造形・創製・機能性の評価を行っている。 また、経験主義のスポーツおよびスポーツ障害治療に対して工学的評価手法で得られるエビデンスに基づく学問体系に則った真のスポーツ医学を実践。バイオメカニクスや動作解析から得られたエビデンスに基づいた運動療法や、高齢者やスポーツアスリート等の膝関節疾患に対する予防やリハビリ、機能評価など整形外科学分野と共同で実践。

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