[第26回読売演劇大賞 受賞者・受賞作紹介]

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 2018年の演劇界の成果を顕彰する第26回読売演劇大賞が決まりました。正賞はブロンズ像「蒼穹そうきゅう」、副賞は大賞・最優秀演出家賞に200万円、その他の最優秀賞並びに杉村春子賞、芸術栄誉賞、選考委員特別賞に各100万円を贈ります。受賞作、受賞者を紹介します。(敬称略)

 

台詞尊重 歩む王道

大賞・最優秀演出家賞 栗山民也(「チルドレン」「母と暮せば」の演出)

■審査評 矢野誠一

 演出という仕事に、「いちばん大切なのは体力」と早逝した女性演出家からきいたことがある。大賞に選ばれた栗山民也は、2018年に「母と暮せば」「チルドレン」など10本の舞台を演出している。17年には8本、16年9本。この3年間に27本の演出に携わっているわけだが、この数字がなみの体力ではかなわぬことはすぐわかる。演出プロパーとして、誇っていい数字だ。

 演出家栗山民也の特徴を問われれば、べつに際立った特徴のないのが特徴と答えたい。奇をてらった思いつきや、見た目に派手な舞台づくりで、演出家としての個性を打ち出すようなことを、栗山はしない。

 芝居を芝居として成立させている最大の要素は、戯曲に書かれた台詞せりふにあるという自明の理を、栗山の演出する舞台はいつも教えてくれる。役者の身体行動のほうが重視され、台詞による言語行動がないがしろにされている舞台が横行している昨今の風潮にさからって、演出家の王道を歩んでいることを高く評価したい。

 さまざまな作品の、さまざまなテーマを、的確に抽出し舞台表現するすぐれた職人技は、戯曲の深い読解力に加えて、この人の役者への信頼度がきわめて高いことによっている。

 新国立劇場芸術監督として、2000年から07年の任期中に発揮した精彩な企画力と、演劇研修所の創設に尽力したことも栗山民也の手柄のひとつだ。

 くりやま・たみや 1980年に演出家デビュー。セリフ劇、ミュージカル、オペラなどを幅広く手がける。新国立劇場演劇芸術監督も務めた。近作に「アンチゴーヌ」「スリル・ミー」など。第3回、第6回で最優秀演出家賞。66歳。

 

演技の深まり 作品磨く

最優秀作品賞 百年の秘密(ナイロン100℃)

■審査評 萩尾瞳

 初演時にすでに傑作と言われた舞台が、再演でさらに素晴らしくなる。観客にとっては、これほど喜ばしいことはない。ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)作・演出、ナイロン100℃上演「百年の秘密」は、そんな嬉しい体験をもたらした再演作だった。

 初演は2012年。女性2人の友情を軸に描く、ひとつの一族の4代にわたる年代記である。おそらく、前年の東日本大震災に触発されたとおぼしき初演には、理不尽や悲しみに満ちていても人生には価値があるという想いが漂っていた。それが再演では、罪も悲しみも喜びも清濁併せのむ、大らかな人生讃歌へと色合いが変わったようでもある。

 脚本や美術には大きな変更はなし。登場人物の関係性をより明確にするステージングの変化と、なにより、初演とほぼ同じキャストの演技の深まりが、作品を磨き上げたのだろう。ほとんど再演をしないKERAが、劇団創立25周年を期して「これだけは再演したい」と願ったという作品。その心をスタッフ・キャストが共有し、創り上げた、魅力あふれる舞台であった。

 「百年の秘密」 「わが町」など複数の名作戯曲の構造やセリフを巧みに劇中に取り入れている。洋館と庭の大木の舞台美術に映像を重ねるなど見せ方にも工夫が凝らされた。出演は犬山イヌコ、峯村リエら。

 

知性と才能がつくる演技力

最優秀男優賞 岡本健一(「岸 リトラル」「ヘンリー五世」の演技)

■審査評 河合祥一郎

 岡本健一は、2005年、10年にも優秀男優賞に輝いているが、昨年はさらにパワーアップした。12年にリチャード三世を演じたとき、<死へ向かう力>を語って役の内奥をつかみ、それを見事に具現化した岡本は、ワジディ・ムワワドの「炎 アンサンディ」での破壊的表現などのこれまでのさまざまな蓄積の上に、18年に「岸 リトラル」で死臭を放つ遺体という想像を絶する役で驚異的な飛躍を見せた。死んでいるのに強烈に息子に取り憑き、しかもユーモラスな死体! 奔放に見えながら的確な演技によって、死を超越した人間の本質に迫った力量は尋常ではない。

 「ヘンリー五世」のピストルは空威張りをするが、負け犬の運命をたどる男。ローマ喜劇から続く<法螺吹き兵士>の系譜に連なる役柄だ。岡本はこの役を極めて魅力的に膨らませた。威勢はよいが何一つ成し遂げられず、運命に見捨てられる男の悲哀を、ヘンリー五世の栄光との対比で浮き彫りにした演技力は、役を正しく把握する知性と鍛え上げられた才能の賜物だと言うべきであろう。

 おかもと・けんいち 1985年にドラマ「サーティーン・ボーイ」でデビュー。ロックバンド「男闘呼組」のメンバーとして人気を博す。近年、舞台を中心に活躍。ジャニーズ事務所所属。49歳。

 

揺らがぬ芯と美しさ

最優秀女優賞 蒼井優(「アンチゴーヌ」「スカイライト」の演技)

■審査評 赤川次郎

 思えば、映画「花とアリス」「フラガール」のときから、蒼井優は背筋の真っぐに伸びたりんとした立ち姿が美しかった。その美しさをそのままに、役に没入する覚悟と明瞭なセリフを身につけた彼女に、演出家が「ここにアンチゴーヌがいる!」と思ったのも無理はない。

 少女の面影を残したまま、周囲の人々すべてを敵に回しても思いを貫く蒼井優のアンチゴーヌは鮮烈な印象を残した。

 一方で「スカイライト」ではかつての不倫相手との再会という微妙なシチュエーションに揺れる大人の女を描き出した。

 しかし、ここでも蒼井優のヒロインは単純に「よりを戻す」ことを潔しとしない。印象的なのは、決して自分を見失うことのない毅然きぜんとした姿である。

 舞台から映像まで、幅広い活動の場で、しかし何を演じても確かな、揺らぐことのない芯を持った人だ。そして、これからどんな顔を見せてくれるか楽しみな女優に、今回最優秀女優賞を贈ることができることは幸いである。

 あおい・ゆう 1999年にミュージカル「アニー」でデビュー。以後、映画、ドラマと幅広く活躍。昨年、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。第17回優秀女優賞。33歳。

 

まさにマジック!

最優秀スタッフ賞 上田大樹(「百年の秘密」「メタルマクベス disc1~3」の映像)

■審査評 中井美穂

 今まで映像部門で最優秀賞が出ていなかったのが不思議なくらい、演劇において映像演出は不可欠な存在になっています。特に劇団☆新感線が2年間作品を上演した客席が360度回転する劇場では、映像なしでの上演は不可能と思われます。また、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの多くの作品世界にとってもなくてはならない存在です。今回、上田大樹さんが圧倒的な支持を集めて最優秀賞に輝いたことも必然だったと感じます。

 上田大樹さんの制作する映像は、作品にとっての生命線を担っている場合が多く、限りある舞台空間を時代も場所もスケールも自由自在に操りながら作品世界をぐっと引き立て、今までできなかった演出を現実のものにしました。映像に温度や手触りを感じさせ、美しくも繊細でありながら大胆で観客に驚きをもたらす、まさにマジック!

 ますます進化していくデジタルな映像世界を劇場というアナログで不自由な場所でどう見せてくれるのか、期待は高まるばかりです。

 うえだ・たいき アートディレクター。早稲田大在学中に演劇ユニットを主宰し、活動の一環として映像制作を始めた。ナイロン100℃、劇団☆新感線の劇中映像や、CM、ライブ映像なども手掛ける。40歳。

 

役を鮮明にする造形力

杉村春子賞 松下洸平(「母と暮せば」「スリル・ミー」の演技)

■審査評 渡辺保

 「母と暮せば」は井上ひさしの「父と暮せば」をもとに畑沢聖悟が新たに本を書き、栗山民也演出、母が富田靖子、息子が松下洸平であった。

 松下洸平は前半は普通の出来であったが、後半長崎に原爆が投下されて自分が死ぬシーンで卓抜な演技を示した。わずかな照明、音響の変化のなかで原爆によって人間が死ぬ状況を目の当たりに再現したのである。それは今ここにいる自分に成り切って、さらに空間に過去の原爆投下の状況を描き、その状況に入って行く自分という3点を明確に造形したことによるだろう。

 この造形力は「スリル・ミー」でも同じであった。受刑囚としての今の自分、過去の状況、そしてその状況のなかに生きる自分。そういう3点が明確になってはじめて過去が生き、それが現在に反映して罪を犯した人間の「私」を鮮明にした。

 こういう造形こそ本来全ての俳優が持つべき機能であり、方法論だろう。その俳優の本質をすぐれて発揮した点が松下洸平の選ばれた理由である。

 まつした・こうへい 2008年から自作曲に合わせて絵を描くパフォーマンスを始める。同年、CDデビュー。09年、ミュージカル「GLORY DAYS」で初舞台を踏んだ。31歳。

 

後進育成 当然の結果

芸術栄誉賞 木村光一

■審査評 大笹吉雄

 木村光一の活躍歴は3分される。演出家デビューを果たした文学座時代、劇団に在籍のまま外部の演劇制作団体である五月舎での活躍期と、文学座退団後の制作団体地人会でのそれである。

 デビューは1963年の文学座公演「調理場」だった。これは当時新左翼と言われたウェスカーの戯曲で、劇団の基本的な姿勢とは色を異にした。が、木村の見事な演出はこの選択に異論を差し挟む声を封じた。その延長線上に宮本研の「美しきものの伝説」(68年)以下の開花がある。つまりは文学座の作品の受け皿を大きく広げた。

 五月舎時代は「藪原検校」(73年)など井上ひさしの初期作を手掛けてこの劇作家の地位を確立させ、81年に設立した地人会では85年の初演以来上演が絶えない朗読劇「この子たちの夏 1945・ヒロシマ ナガサキ」(構成・演出)で戦争体験を語りつづけている。

 そしてもう一つの大きな功績が栗山民也をはじめとする演出家の育成で、それらを併せての今回の栄誉は当然とも言える。

 きむら・こういち 演出家。1955年、文学座演出部に入座。70年の「あわれ彼女は娼婦しょうふ」などの演出で新劇界に衝撃を与えた。81年に演劇制作団体「地人会」を設立。地方巡演にも力を入れた。87歳。

 

喜劇に潜む 闘う意志

選考委員特別賞 「ザ・空気ver.2誰も書いてはならぬ」(二兎社)

■審査評 西堂行人

 井上ひさし亡き後の演劇界で、良心の灯をともし続けてきたのは永井愛である。彼女は世相を辛口で批判するが、それを軽妙な喜劇仕立てにしているところがかえって心に響く。決して肩肘はらず、笑いの中で世相を皮肉る。まさに喜劇の妙と言えよう。

 2017年上演の「ザ・空気」はテレビなど放送の世界に斬りこみ、18年の今作「ver.2」ではメディアの中枢である新聞と、ネットメディアの報道に肉薄した。国会内で取り交わされる言説の劣化はもはや惨憺さんたんたるものである。空気を読むことが当たり前になった世の中で、不正をただす者の言葉は霧消し、権力に忖度そんたくする者ばかりが重用されるのでは困りものだ。永井の志は健在である。単純に笑えないシリアスな喜劇に潜む彼女の闘う意志を高く評価したい。

 同作は第1次選考で圧倒的な支持を集めた。だが投票結果で1票差の次点にとどまった。そこで選考委員の選ぶ特別賞にふさわしいと満場一致で選出した。今だからこそ生まれた秀作を顕彰できて光栄に思う。

 「ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ」 永井愛の作・演出。国会記者クラブで起きたある出来事から、政治家とマスコミの微妙な「空気」があぶり出される。出演は安田成美、松尾貴史ら。

 

3作が1票差の接戦

本社内で行われた読売演劇大賞の最終選考会(25日、東京都千代田区で)=竹田津敦史撮影
本社内で行われた読売演劇大賞の最終選考会(25日、東京都千代田区で)=竹田津敦史撮影

 5部門の最優秀賞は投票委員の投票で決まった。投票数は107票。作品賞の「百年の秘密」は、「岸 リトラル」「ザ・空気 ver.2」と1票差で接戦だった。

 杉村春子賞(新人賞)は投票委員から52候補が挙がり、その中から松下洸平が選ばれた。役の造形力、存在感が見事で、地道な努力を重ねた成果がうかがえた点が評価された。

 この賞と最優秀各賞の計6件から選ぶ、年間グランプリの大賞は44票を集めた栗山民也に決まった。演出家賞の他の4候補は劇作も行うが、栗山は演出専門。対象作2本以外にも評価された舞台があった。奇をてらわずセリフを大切にして質の高い舞台を作るという「職人芸」が絶賛された。

 長年の演劇界への貢献や優れた企画を顕彰する芸術栄誉賞は演出家・木村光一に輝いた。かつて栗山が助手を務めたこともある。井上ひさし、宮本研らの戯曲を演出して優れた舞台を創造し、戦争の記憶を伝える活動や後進を育成した功績が認められた。選考委員特別賞は「ザ・空気 ver.2」に。最優秀作品賞に選ばれなかったものの、多くの委員の支持を集めていた。(東京本社文化部次長 祐成秀樹)

      ◇

 贈賞式は28日に、東京・内幸町の帝国ホテルで行われる。

 

 ◆選考委員(50音順)

赤川次郎(作家)

大笹吉雄(演劇評論家)

河合祥一郎(東京大学教授)

中井美穂(アナウンサー)

西堂行人(演劇評論家、明治学院大学教授)

萩尾瞳(映画・演劇評論家)

前田清実(振付家、舞踊家)

矢野誠一(演劇・演芸評論家)

渡辺保(演劇評論家)

423574 1 エンタメ・文化 2019/02/05 05:00:00 2019/02/05 05:00:00 2019/02/05 05:00:00 本社内で行われた読売演劇大賞の最終選考会(25日、東京都千代田区で)=竹田津敦史撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190204-OYT8I50112-T.jpg?type=thumbnail

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