[震災8年]涙だけで終わらせない…南相馬在住・柳美里さん

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「やってみて初めて分かることがある」と話す柳美里さん。「最初は寡黙だった生徒たちも、少しずつ口を開くようになってくれました」=宮崎真撮影
「やってみて初めて分かることがある」と話す柳美里さん。「最初は寡黙だった生徒たちも、少しずつ口を開くようになってくれました」=宮崎真撮影

被災高校生参加 演劇ユニット再開

 東日本大震災の被災地、福島県南相馬市に住む作家、柳美里さん(50)が昨秋から、主宰する演劇ユニット「青春五月党」の活動を、被災者らの出演で23年ぶりに再開している。上演作を含む戯曲集『町の形見』(河出書房新社)も刊行、震災の記憶を言葉によって伝えることの意味を問い続けている。(文化部 小間井藍子)

 

 青春五月党は、柳さんが1987年に結成した演劇ユニット。演技指導で俳優と対立するなどしたため3年で演出から手を引き、戯曲執筆に専念、やがて活動自体も休止していた。

 そんな柳さんを再び演劇に向かわせたのは、被災地での縁だった。震災翌年の2012年から南相馬市の臨時災害放送局のラジオ番組でパーソナリティーとして住民と交流を重ね、15年に同市に移住、昨年4月には自宅を改装して書店も開いた。そこで県立ふたば未来学園高(広野町)の演劇部の男子生徒と出会う。「稽古を見せてもらったら生徒たちが魅力的で、また演劇をやりたくなった」

 こうして昨年9月、自らの演出、演劇部の出演による「静物画」が自宅併設の小劇場で青春五月党復活公演として上演された。21歳の時の旧作の舞台を被災地に置き換えた本作では、一見甘酸っぱい学園生活が描かれる中、会話に「地震雲」「除染」といった言葉が不意に現れる。そして生徒の一人は幻影を見る。

 <作業員たちが抱えたり引きったりしているのは、人間の抜け殻――、ある者は料理をしている姿のまま、ある者はお気に入りの椅子に座った姿のまま、ある者とある者は抱擁をした姿のまま抜け殻になっている>

 地震の記憶は人々の心におりのように沈殿し、時を経ても決して消えない。この地で被災者と向かい合ったからこその実感だろう。

 劇中の生徒が地震発生時の記憶を語る場面には、出演者の実体験を盛り込んだ。「和太鼓をたたくようなドドドドドッという音を、地震とは気付かなかったとか……そういう幼い記憶もそのまま大事にしたかった」

 10月に上演した「町の形見」は新作。南相馬で生まれ育った高齢者8人が、劇中劇の形式で東京の俳優に「記憶を伝える」。海の色が朝から全然違っていたこと、巨大津波の目撃、重機による遺体捜索、避難で無人となった町、さまざまな記憶は<語られながら、途切れ、重なり、集まり、一つの流れのようになる>。

 柳さんはパーソナリティーを務めたラジオ番組で、600人に上る地元の人の話を聞いた。両親を津波で失った女性から収録後、「泣いただけで終わらせないでくださいね」と言われて気付かされた。「知ることには責任が伴う」と。

 終演後「胸を塞いでいたものが流れた気がする」と感想を伝えてきた観客もいたという。震災からまもなく8年、被災した建造物の撤去などが進む中、被災者の声なき声に耳を澄まし、寄り添うことができるのか。「演劇ならば役だから言えること、観客も受け止められることがある。泣いただけで終わらせないという、あの女性への答えの一つとなるのでは」と話した。

 「静物画」は、今月15~17日、東京都足立区のBUoY北千住で再演される。

472741 1 エンタメ・文化 2019/03/05 05:00:00 2019/03/05 05:00:00 2019/03/05 05:00:00 3月に公演を行う作家、柳美里さん(2月13日、読売新聞東京本社で)=宮崎真撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/03/20190304-OYT8I50089-T.jpg?type=thumbnail

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